簡易懸濁法

通常の粉砕法では、散剤や顆粒剤を用いたとしても、粒子径が大きかったり、水に溶けにくかったりして経管チューブを閉塞させる事例も多いことや、粉砕により安定性を損なう可能性があったが、簡易懸濁法では投与直前まで安定性を保った状態で保存できるため、それによって投与できる薬剤の数も増える。

対象患者

口から食べ物を摂ることが困難な経管栄養法(1~2ヶ月:経口・経鼻、2ヶ月以上:胃瘻・腸瘻)を行っている患者。

経口患者であっても、嚥下障害があり、以下の方法を試しても服用が困難な場合、簡易懸濁法で崩壊した薬を含んだ液体にとろみをつけて内服することもできる。

  • 薬剤選択(できるだけ小さく、いくつかに割る、粉や液剤を選ぶ等)をしても服用できない
  • ゼリーやプリン、おかゆなどと一緒に内服する
  • オブラートに包んで内服する
  • 水の代わりにとろみ付きの液体やらくらく服薬ゼリーなどで内服する
  • 食事中に内服する

調剤方法

  1. 錠剤・カプセルをそのままの状態で注射器もしくは懸濁ボトル(けんだくん等)へ入れる
  2. 約55℃のお湯を20ml加えて放置
  3. 約10分後に振り混ぜて経管または経口投与する

一部のフィルムコーティング錠等でそのままの状態で溶け切らないものがあるので、その際は服用直前にペンチ(100均のギザギザなしのものがいい)や乳棒等で叩いて亀裂を入れてから加える。

55℃のお湯はポットのお湯と水を2:1で作れる。55℃という温度が10分たっても37℃を維持できる温度。カプセルは体温37℃、10分間で溶解して薬効成分を放出するよう作られている。

遮光が必要な薬は茶色の遮光懸濁ボトルにて懸濁する。懸濁ボトルを使うとそのまま経管チューブへ入れることができるので注射器を使用する必要がなくなる。

調剤時の注意

懸濁した液のpHについては能書に記載がないため簡易懸濁法研究会に登録してデータベースを確認したり、関連書籍で調べたりする必要がある。

無料で調べるには情報がやや不足しているので、定期的に簡易懸濁法を用いて調剤する場合は、これらの情報入手手段をきちんと揃えて、道具も揃えておくとともに、マニュアルを整備して置く。

内服薬 経管投与ハンドブック 第3版

麻薬の経管投与

  • モルベス細粒・・・徐放性製剤。注射液に水を用いると付着しやすくなるので、界面活性作用のあるカゼインを含む牛乳や経腸栄養剤を注入液として用いるとよい。それでもチューブ閉塞する場合は嚥下補助ゼリーを使用する。
  • パシーフCap、MSツワイスロンCap、オキシコドン徐放Cap「テルモ」は経管投与可能
  • モルヒネの液剤としてオプソ内服液があるが、コストが気になるようなら、モルヒネ塩酸塩錠から簡易懸濁法を用いてモルヒネ水を作るという手もある。
  • ヒドロモルフォンの徐放錠(ナルサス)は経管投与できないが、速効性のナルラピドは簡易懸濁法可能。ただし持続性がないため、1日4-6回分割が必要。

NaClの経管投与

NaCl投与の注意点は、浸透圧と塩析の2点。

  • 食塩水濃度が生理食塩水の濃度(0.9w/v%)の数倍になる場合、胃や腸に直接侵襲が加わり炎症が起きる可能性があるので、高濃度の食塩水を投与するときは、経腸栄養剤のあとに投与する。
  • 経腸栄養剤のタンパク質や炭水化物が親水コロイドとして正負の電荷を持っているため、H2O分子がコロイド粒子をコーティングしている。多量のNaClを添加すると、NaClが+と-のイオンとなって、H2O分子をとることで、静電気反発力が中和されて沈殿が起こる。
  • ネキシウムは低温だと崩壊遅延、高温だと腸溶性粒子が塊に。またNaCl液と混合すると崩壊しなくなる。カプセルにピプメロース(HPMC)が用いられているため(他クラビットも)、別の注射器内で懸濁する。ピプメロースのカプセルはゼラチンよりも乾燥条件で弾力性が有る、低分子のため薬物の安定性が良い、メイラード反応がない、プロテアーゼによる分解がない、安定した溶出性を示す等が特徴。
  • 経腸栄養剤を長期で使用している場合、低Na血症に注意する。

その他の注意点

殆どの薬品が中性を示すものの、酸性やアルカリ性を示すものも有り、これらが混ざりあった場合の相互作用に注意を要する。

  • タケプロンODは腸溶性顆粒を含んだ口腔内崩壊錠で、腸のpHであるアルカリ性のものと混合すると薬効低下、酸でも不安定、温度が高いとタラコ状になるので水で懸濁
  • バイアスピリンは腸溶錠であり懸濁不可、バファリン81やアスピリン末へ変更
  • レボドパ製剤、βラクタム抗生剤、アスピリン、アミティーザはアルカリ性で分解
  • ニューキノロンと酸化マグネシウムやスクラルファートの同時懸濁→間を空ける。
  • アルカリ性を呈する薬剤(カマ、クラリス他)と酸性を呈する薬剤(セフェム、ムコダイン他)の相互作用
  • 重カマ(細粒)はチューブ閉塞を起こすので、マグミット等の錠剤へ変更
  • アダラートCR等のシングルユニットタイプの徐放性製剤は懸濁不可。マルチプルユニットタイプの徐放性製剤のテオロングやニトロールRは可。

参考引用文献等

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記事No2286 題名:Re:nohetake 投稿者:管理人tera 投稿日:2022-09-01 16:36:09

正確な文献までは覚えていないのですが、おそらく調剤と情報だと思います。


記事No2272 題名:教えてください 投稿者:nohetake 投稿日:2022-08-30 14:19:51

『NaCl液と混合すると崩壊しなくなる。カプセルにピプメロース(HPMC)・・・』が書かれている文献等あればお教えください


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