アルコール代謝と発酵のメカニズム

アルコール代謝

アルコールは肝臓で、アルコール脱水素酵素(ADH)やミクロゾームエタノール酸化酵素(MEOS)によりアセトアルデヒドに代謝されたあと、アセトアルデヒド脱水素酵素により酢酸になります。

酢酸はアセチルCoA合成酵素とATPの作用により活性化され、活性化された酢酸が補酵素A(CoA)と結合してアセチルCoAを形成し、TCA回路に入り、最終的に二酸化炭素と水になります。

アルコールと酢酸は肝臓や他の臓器に悪影響を与えませんが、代謝されて生成した中間代謝物のアセトアルデヒドが有毒作用を示します。

肝臓でアルコールが代謝されるときに、NAD+が使われるため、NADHが増える上に、NAD+を使う他の反応との競合が起こります。

※NAD+は水素原子を受け取り(還元:NAD++2H++2e-→NADH+H+)、NADHになる。NADH2は、NADH+H+、NADH2+の略

NAD(補酵素)を使う反応

アルコール代謝の他でNAD+を使う主な還元反応(アルコール代謝に競合する反応)は、

  • グリセルアルデヒド-3-リン酸→1,3-ビスホスホグリセリン酸(解糖系初期)
  • ピルビン酸→アセチルCoA(解糖系初期)
  • イソクエン酸→α-ケトグルタル酸(TCA回路)
  • α-ケトグルタル酸→スクシニルCoA(TCA回路)
  • リンゴ酸→オキサロ酢酸(TCA回路)
  • 乳酸→ピルビン酸(糖新生)
  • グリセロール-3-リン酸→ジヒドロキシアセトンリン酸(糖新生)
  • アシルCoA→アセチルCoA(β酸化)(この反応にはFAD+も必要)
  • ソルビトール→フルクトース(ポリオール経路)

アルコールによる引き起こされること

もちろん、NADHが増加すればその反応が不可逆であれば逆反応が起こる。アルコールが糖新生やβ酸化を抑制して低血糖や脂肪肝を引き起こすといわれる理由がここにある。

  1. 1,3-ビスホスホグリセリン酸→グリセルアルデヒド-3-リン酸は糖新生の経路として働いている
  2. リンゴ酸→オキサロ酢酸の反応が阻害される。糖新生の際にオキサロ酢酸はミトコンドリアから出るためにリンゴ酸に還元されて再度オキサロ酢酸に戻る必要がある。
  3. ピルビン酸からアセチルCoAへ進めず、乳酸への代謝が更に進む。乳酸からの糖新生抑制と乳酸アシドーシスへ
  4. ジヒドロキシアセトンリン酸→グリセロール-3-リン酸というグリセロールからの糖新生の逆反応が進み中性脂肪が蓄積する→脂肪肝
  5. 脂肪酸のβ酸化が進まず、脂肪酸が蓄積し中性脂肪が増える→脂肪肝
  6. ソルビトールの蓄積による細胞内浸透圧の上昇→むくみや、末梢神経障害

発酵とは

発酵とは、一般的には微生物が十分な酸素を利用できないとき、エネルギーを得る(NAD+の再生)ために使われる経路です。

酵母や一部の細菌は、解糖系で生じたピルビン酸を最終的にエタノールや乳酸などに変換し、この過程でNAD+を再生します。

エタノールへの発酵は以下のように進行します。

  • ブドウ糖が解糖系でピルビン酸に変換され、その過程でATPとNADHが生成する
  • ピルビン酸がピルビン酸デカルボキシラーゼにより脱炭酸されてアセトアルデヒドと二酸化炭素が生成する。(ピルビン酸→アセトアルデヒド+CO2)
  • アセトアルデヒドがADH(アルコール脱水素酵素)の存在下、NADHによって還元されてエタノールとNAD+が生成する。(アセトアルデヒド+NADH→エタノール+NAD+)

例えば、パンを作るときに、パンが膨らむのは発生した二酸化炭素のせい、発生したエタノールは蒸発してしまうのでほとんどパンには残らない。

乳酸の生成の方はヒトが嫌気的条件下、LDH(乳酸脱水素酵素)の作用でピルビン酸を乳酸にする際にNAD+を再生するのと同じです。

通性嫌気性菌のように好気的でも嫌気的でもエネルギーを産生できる菌は、酸素が十分にある場合、通常はより効率的な好気的呼吸を行います。しかし、酸素が限られている場合、代わりに発酵経路を用いてエネルギーを産生します。

しかし、一部の酵母は、高濃度の糖が存在すると酵母が好気的呼吸ではなく発酵を選択します(好気的発酵:Crabtree効果)。

  • 乳酸菌:乳酸菌は細菌の一種です。主にLactobacillus、Streptococcus、Leuconostoc、Pediococcusなどの属に分類されます。これらは、乳酸を主な代謝産物とする発酵を行い、NAD+を再生し、食品の酸味や保存性に貢献します。
  • 麹菌:麹菌は真菌(カビ)の一種で、特にAspergillus属(特にAspergillus oryzae、米麹菌)がよく知られています。麹菌は日本の伝統的な発酵食品(例えば、醤油、味噌、酒など)の製造に不可欠です。麹菌は通常好気的呼吸を行いますが、特定の条件下でエタノール発酵等を行うことができます。
  • 酢酸菌:酢酸菌も細菌の一種で、Acetobacter属やGluconobacter属に属します。これらはエタノールを酢酸に酸化することで酢(例えば、りんご酢や米酢)の製造に関与しています。
  • 酵母菌:酵母は真菌(菌類)の一種で、特にSaccharomyces cerevisiae(醸造酵母)が最も広く使用されています。酵母は糖をエタノールと二酸化炭素に発酵し、パンの膨らみやアルコール飲料の製造に重要な役割を果たします。

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