はじめに

東邦ホールディングスUSセミナー2013にて、アメリカの医療制度を学んできました。そこでの講義内容を元に、2013年12月現在でのアメリカの医療の仕組みについて記載しています。(間違い指摘歓迎)

東邦ホールディングスUSセミナー2013の旅行記は、【東邦USセミナーアルバム】をご覧ください。

アメリカの医療制度の概要

アメリカが目指す医療システムは、

  • すべての人が適切な医療を低負担で受けることができる
  • 医師や薬剤師といった医療提供者が適切な医療を提供できる

この2つの体制に重きを置いています。

2014年施行のオバマケアによって、アメリカに15%程いる無保険者を保険に入れる施策が取られますので、これによってほぼすべての人が保険に入っている状態になります。

医療提供において決定的に日本と異なるのは、アメリカの医師は患者を沢山診ないほうが収入が増えることです。

日本では患者さんがたくさん受診すればするほど診察料を取れますから、それだけ診療報酬を受け取ることができます。いわゆる出来高払制です。このシステムだと患者さんの多い医療機関の前に薬局を作れば、薬剤師は特に努力をせずに患者を獲得できる上に、薬局が分散化されてしまい、一人あたりの処方箋枚数が減り、人不足や人件費の増加を生みます。(処方箋枚数60枚・薬剤師2名の10の小さな薬局を1つにまとめると、処方箋枚数600枚だが、薬剤師は20人も必要ないということ)

しかし、アメリカにおいては昔は出来高払制が主であったものの、今は人頭払い制と呼ばれる患者が受診しようがしまいが一人あたり月に約150ドル貰えるという仕組み(患者は第三者支払機関を通してその医師と関連付けられる)が主となっています。患者1人当たりから貰える金額の上限が決まっているわけですから、医師は診察回数を減らしたほうがより沢山の患者を診ることができるため、1ヶ月に診ることのできる患者数が増え、結果として利益が増えます。

一方、薬局はたくさんの患者に来てもらったほうが当然のことながら利益は上がります。では薬局が処方箋を増やすためにはどうすればよいのか?医師は患者を減らす努力をしているのに門前に薬局を作ったところで儲かるはずはありません。患者さんに選んでもらえるような薬局を作ることが求められますから、当然、それ相応のサービスを提供しなければなりません。丁寧な服薬支援、検査値の測定、配送やドライブスルー等様々な患者さんに選んでもらえるようなサービスを行います。

これによって患者さんは良好な服薬コントロールを行うことができ、医療機関の受診回数が減り、医師はその薬局を高評価し、医療機関と薬局の間の機関(HMO等)はその薬局を優先的に医師に紹介し、より沢山の患者に選んでもらえることになります。

考え方が全く日本とは異なるため、整備されているシステムも全く違ったものですが、この考え方を先に頭に入れておくと理解しやすいのではないでしょうか。

アメリカの保険

アメリカの保険(日本でいう国保・社保・後期にあたるもの)は大きく、

  • 民間保険・・・民間の保険。65歳未満の人
  • メディケア・・・公的な保険。65歳以上の高齢者、身体障害の若年層
  • メディケイド・・・公的な保険。貧困層

の3つに分類することができます。これらに加入していない人のことを無保険者といい、全体の約15%いると言われる。

日本では保険の分類が負担割合だけの違いであり、受けられるサービスは平等ですが、アメリカは少し違います。アメリカの保険は商品(つまり、任意の生命保険のようなものと考えててください)であり、購入する商品によって受けられるサービス内容が異なります。薬の値段や薬の種類、医師や薬局までもが保険により決定されます。

ゆえに、くくりは大きく3つですが、メディケイド以外の保険はその中身(主としてサービス内容)は大きく異なります。

民間保険(private)

民間の保険は、

  • 定額限度保証型(indemnity insurrance)・・・昔からある出来高払い
  • HMO(Health Maintenance Organizations)・・・マネージドケア
  • PPO(Preferred Provider Organizations)・・・マネージドケア

の3つに分類されます。

会社に属している人は雇用主が購入した民間保険に入ることになり、雇用者は保険料を支援するが、従業員は掛け金、事故負担、控除免責金を通して支出を分配する。多くの雇用者は、保険掛金の大半(家族補償の70%、個人保証の81%)を支払う。

後者の2つ(HMOとPPO)は、マネージドケアと呼ばれ、第三者機関により医療サービス自体がコントロールされている前払い・会員制の医療サービスで、患者や医師はゲートキーパー呼ばれたグループを介してやり取りを行う。

定額限度保証型

患者が好きに医者を選んで治療費を払い、保険対象疾病であればその金額が補てんされる一般的な考え方の保険。日本の保険のように糖尿病だと入れないor非常に高額になるなど縛りが多く、適切な医療を受けるためには問題があるから?現在は廃れてきていて、今後徐々になくなっていくであろう保険。

HMO

患者と医療機関の中間に位置し、医師や薬局ばかりか使用薬剤、患者のデータまでもをコントロールする機関。もちろん保険料のやり取りや償還作業もこの機関が行うため、日本でいえば保険会社が医師と患者と薬局のコントロール権を得たような機関と考えるとよい。

こうなるとHMOは、そのほとんどをコントロールできるので特定の医師に患者を誘導させて、特定の医師のみを大変にさせることもできるし、その逆も可能となるわけだが、HMOは1つの機関ではなく400以上存在するため、HMOの中でも競争が起こり、独占は避けることができる。

HMOに加入するためには、その会社が法人でなければならない。個人として一人で入ることはできず、自営業であったとしても必ず法人化(アメリカの法人設立は容易)して3~4人程度のグループで加入しなければならない。

また、HMOに加入するための条件は、性別と年齢のみで、定額限度保証型のような疾病により保険料が変わったり入れなかったりするものではない。一人はみんなのため、みんなは一人のためという考え方で、保険料はみな平等、その代り、医者や薬局他様々な情報は患者自身はHMOが指定した範囲内でしか決められない。他に行った場合は全額負担になる。

例えば、ウエルシア関東の関連会社(イオン)がHMOを設立し、イオン独自の保険商品を販売したとする。医師はHMO(イオン)と契約しイオングループに属すことになる。ある患者がイオンHMOの保険商品を見てこれはよいということでその保険商品を購入すると、HMOであるイオンは患者のデータをHMOに作って、患者にはグループ専属の医師にかかるよう指示、薬はイオンのプライベートブランドを使うよう指示する。もちろん薬局はウエルシアを使うように指示する。

HMO自体も限られた予算の中でいかにして利益を出すか、結果的に早く、安く患者を治すかを考えることが求められる。

PPO

患者は特定のPPOにHMOよりも高い保険料を支払って加入する(会員になる)。医師はPPOと契約を結び優先的に斡旋してもらえるようにする代わりに、割引料金での医療サービスを提供しなければならない。

このバランスをコントロールする機関としてPPOが存在する。

会員料は一定のため、PPO的にはなるべく患者に病気にかかってほしくないが、PPOでは出来高払制であるので、医師的にはなるべくたくさんの患者を斡旋してほしいと考える。そのあたりをバランスで調整するあたりがHMOとともにマネージドケアと呼ばれる所以。

メディケア(medi-care)

メディケアは主として65歳以上の高齢者のための公的保険(保険者は政府)で、パートAは病院(入院)の費用、パートBは医師の費用、パートCは処方薬の費用をカバーしている。

65歳以上であればだれでもパートAは受けれるが、パートBとCは4年間税金を払っていないと受けることができない。なお、65歳以上でも仕事の保険を任意継続することはできる。その場合は、メディケアが第一保険で雇用主の保険が第二保険となる。

患者はメディケアを通して直接的に、もしくはメディケアHMOや雇用主を通して、メディケアに加入することになる。

メディケアの自己負担割合は、メディケアリスク契約(診察のすべてをそのHMOで受けるという契約)を行った場合で、1割負担となる(9割は政府からHMOに支払われる)。HMOの月額の会員費が150ドルであるので、その1割である1500円くらいが実際に月に支払う負担割合ということになる。

メディケイド(medic-aid)

メディケイドは貧困者のための公的保険(保険者は政府と州)で、所得が一定レベルを下回った場合に加入することができる。

収入レベルの線引きは州が行うことができるが、州は基準の金額の範囲を上げることはできるが、下げることはできない。

患者は州のプログラムのメディケイドを通して直接的に、もしくはメディケイドHMOを通して、メディケイドに加入することになる。ただし、メディケイドのHMOは政府が指定し、自己負担はないものの補償としては最低のものです。

無保険者

上記3つの保険どれにも入っていない、65歳未満で、保険に入れるような仕事をしておらず、かといってメディケイドの収入よりも上の人(18,19歳辺りが多い)のこと。

無保険者は緊急を要するような状態の時(交通事故等)のみ無償で医療を行ってもらうことができる。ただし、政府の医療機関限定である。

政府が全額負担するのがいやなのかどうかはさておき、この無保険者が保険に入れるように2014年までにPatient Protection and Affordable Care法(通称:オバマケア)の元、メディケイド枠拡大等のヘルスケアリフォームを実現する予定。この措置でも加入しないものには3年毎に0.5%~2.5%のペナルティを与えるという施策もある。

薬局を取り巻く環境

HMOやPPOは保険会社の立場として、患者や医師とはやりとりをしますが、薬局との直接の取引はしません。薬局とHMOの間に入る機関であるPBM(薬剤給付管理会社)が薬局との契約することで、薬局-PBM-HMO-医師or患者のネットワークを形成します。

これにより薬剤師が医師に対して疑義照会をすることはほぼありません。その疑義のほとんどがHMOやPBMの監査により戻されるためです。

PBM

PBMは、保険会社の薬剤給付プログラムのみを管理する会社で、処方薬に対する給付管理を提供するため、HMOやPPO、自家保険雇用主、保険会社、メディケイドやメディケアといった管理ケアプラン、政府、国務省、自治体などの政府機関とも契約している。

PBMにもいくつかあり、それぞれ独自のリアルタイム薬剤チェックシステム(相互作用など)や、患者スクリーニング、患者・医師教育、処方薬管理、ジェネリックへの変更、メールオーダーサービスといった機能で差別化を図っている。

症状が安定している慢性患者に使用される薬をメールオーダーサービスを介して、メールオーダー薬局工場による自動調剤→最後だけ薬剤師がチェック→自宅へ配送でに90日投与するということも比較的頻繁に行われている。処方薬の売上の22%はメールオーダー薬局によるものという。

PBMは4段階の患者負担金システム(いわゆる処方の優先度)を提供している。

  • 第一段階・・・ジェネリック
  • 第二段階・・・PBMの処方集に掲載されている薬
  • 第三段階・・・PBMの処方集に掲載されていない薬
  • 第四段階・・・注射薬(薬局には関係なし)

これは、PBMが利益を確保するために必要なことで、優先度が高い(数字が小さい)ほど、PBMが望む処方で利益がでるものと考えて良い。第三段階の処方集に乗っていない薬に対しては正当な理由を要求する。

PBMはさらに利益を確保するためにメーカーとの間でリベート契約を行います。ディスカウント(割引)と違って、リベートはある期間までにある薬剤の使用割合を30%にできたら5%引くという金額払い戻しの契約です。このリベートによる利益が大きいことから、PBMは医師にパラメータを設定し、なるべく優先度の高い薬剤を使用してもらえるように勧めている。

GPO

GPOは購入共同組織と呼ばれ、複数の薬局や卸がグループ(GPO)を形成して、薬を大量に安く仕入れる仕組みのこと。薬局はユニークなナンバーで区分され、GPOに加入することで利益を増やすことが可能です。

薬価という概念はアメリカにはなく、販売価が市場価格に左右(薬が薬価に守られていない)されていて、仕入原価を安くすることで売上原価を下げて、売上を日本よりも大幅に増やすことが可能です。

ジェネリックは日本が先発品の半分程度が多いのに対して、アメリカの場合は特許切れと同時に30分の1とか、もしくは100分の1程度の金額まで下がることも日常です。

医薬品卸

アメリカの卸は、日本と違い基本1日1回しか配送しません。1日2回も頼むことができますが、配送料金が別途25ドルかかります。2回を超えて頼むことはできません。

アメリカの薬局は、複数の卸から納品することはほとんどありません。薬局はprimary卸とsecondary卸を持ちますが、大抵はprimary卸でのみの取引をします(価格を重視するということでしょうか)。

薬局について

薬局の種類

薬局の種類としてはおおまかに

  • リテール薬局・・・チェーン、独立系
  • メールオーダー薬局・・・PBMの主要部分
  • 専門薬局・・・在宅、注射、インターネット、HIV

があります。

リテール薬局は、CVSやライトエイドのようなチェーンの薬局やスーパーマーケットチェーン、コストコなどの小売店と独立系の薬局が該当します。

薬局のスタッフ

薬局で働くスタッフには、薬局薬剤師のほか、テクニシャン、クラークと呼ばれる人がいます。

アメリカでは必ずしも薬を渡すときに薬剤師が投薬をしなくても良いので、新しい薬が追加になった時等以外で症状が安定しているのであれば、薬剤師以外が渡してもよいばかりか、薬剤師以外の配送でさえも問題ありません。その代わり必ず薬剤師が調剤監査をする必要はあります。薬剤師の役割は薬をピッキングしたりただ渡すだけことではなく、患者に喜ばれるサービスの向上、収益の管理、ビジネス業務にまでに至る、どうすれば患者さんにより効率的にサービスを提供できるかを考えることのほうが重要だったりします。(薬局薬剤師の平均年収:11万6583ドル、時給:65ドル)

アメリカの薬学部は主として6年制であり、最初の2年は一般教養科目、残りの4年が専門科目で構成されている。これを無事卒業するとPharmDの学位が得られ、薬剤師免許の受験資格を得られる。一般教養科目はほかの大学での単位も認められるらしいので、他の大学を卒業していれば1~2年短縮されることもある。日本で薬学部を卒業している人がアメリカの薬学部に入学する場合でも最大3年程度分しか短縮できず、残りは履修しなければならない。アメリカの薬剤師免許を持っていれば日本の薬剤師免許の受験資格が得られることから、アメリカの薬剤師のほうが日本に比してレベルが高いことがうかがえる。
また、アメリカでは薬剤師になったとしても2年毎に30時間の継続教育単位が必要とされる。

テクニシャンは、薬剤師がやらなければいけない調剤監査業務以外を行うことができます。(テクニシャンの平均年収:2万2000ドル~3万5000ドル)

クラークは、薬局の受付窓口で接客を主として受付業務や在庫、注文等の雑務的作業を行います。

処方箋

FAX処方箋は昔からある様式。医者が患者を自由に振り分けることができるようで、医師に対して自薬局を営業することで処方箋枚数を増やすことも可能。

電子処方箋は最近台頭してきた処方箋様式で、患者が選んだ薬局に電子データを送信する方法。

リフィル処方箋は、なんどでも使える処方箋のこと。期限は1年間で使える回数が処方箋やボトルに印字され、使うたびに減っていき、ゼロになったら使うことができなくなる。ゼロになったら薬局側で医師に照会してリフィルの回数を再び増やしてもらうよう働きかけることも可能ではあるが、医師から受診するようにいわた場合は、受診に行かなければならない。

考察

アメリカのシステムは非常に合理的である反面、医師や薬剤師、患者が自由に薬剤や医療を選択することができないというデメリットもある。

保険会社が医師や患者を含めた医療全体をコントロールして、コストを下げるため処方薬を限定し、かかることのできる医師や薬局までを限定するため、1つの保険にしか加入していなければ、患者はその枠内での医療しか受けることができないし、医師はその保険会社が指定する薬を優先的に使わざるを得ない(保険会社に斡旋を受けなければならない立場にあるため)。

お金持ちであれば、複数の保険に加入して色々な選択を受ける権利があるが、お金がない人は単一の安い保険で質の低い医療(全てGE等)しか受けることができなくなり、医療の平等性という視点においてはよいシステムとは必ずしも言えないのではないだろうか。

アメリカのシステムは、今の日本のシステムでの最大の問題点である、医師が病状が安定している患者に2週間ごとに来させて無駄な診療報酬を受け取ったり、薬剤師が対して指導もしていないのに余計な加算をとったり、生保の患者がタダだからと言って何度もたいしたことのない病気で受診したりする等の本来の医療とはかけ離れたありえない行為を是正するためのシステムに過ぎず、本来であれば、今の日本のシステムですべての人が常識ある行動・行為を心がけることができれば、アメリカのような保険会社がすべてを仕切るようなある意味閉鎖的な医療ではなく、みんなが同じレベルの医療を好きな場所で受けれる開放的な日本の医療も捨てがたいように思える。

もちろん税金で成り立っている業界なので、それを支払っている国民がどう思うかが最も重要なんだと思いますが。。。税金を無駄遣いさせないことと全ての人に平等で質の高い医療を提供することを両立させるためには、どういうシステムがいいのでしょうか。

コメントor補足情報orご指摘あればをお願いします。



  • << 前のページ
  • 次のページ >>
ページトップへ