薬の正しい使い方

薬物動態の触り

ステロイド薬が体に、吸収→分布→代謝→排泄、していくことをまとめて薬物動態と言って、薬物動態学を学ぶことは、 薬がどれくらいで効果が出るのか?薬はどれくらいの時間、体に残るのか? など薬の体内動態を知るのに非常に有用です。

とはいえ、内容が結構難しいので、我々薬剤師のほとんど?(私だけ?)は必要な場所だけ端折って覚えているのだと思います。

まず、前提としていくつかの事項を頭に入れておきます。

  1. 定常状態には血中濃度半減期の4~5倍の時間にわたって連続投与したときに達する。
  2. 血中薬物の消失にも、血中濃度半減期の4~5倍の時間を有する。
  3. 定常状態の血中濃度が、初回投与の血中濃度の何倍になるのかは、投与間隔/血中濃度半減期の比できまる。
  4. 二相性の薬物濃度曲線を持つ場合、連続投与されているときには、β相の半減期を用いる。

例えば、風邪薬を1g飲んだとしても、実際に肝臓での初回通過効果を受けたりして、循環血中に入るのはその内の何%になります。 そして、血中に入った薬物は、体内を循環していく内に肝臓や腎臓により排泄処理を受けて、尿や糞として体外へと排出されてなくなります。

この流れの中で、最も血中濃度が高くなる時間を、最高血中濃度到達時間(Tmax)とよび、その時の最高血中濃度をCmaxと呼びます。 体内に薬物が吸収されてからCmaxが半分になるまでの間の時間を半減期(T1/2)と呼んでいます。

定常状態というのは、入ってくる薬の量と出て行く薬の量が等しい時の血中濃度(Css)を指し、定常状態に入ることは、血中濃度が 上がったり下がったりと株価のように不安定でなく、血中濃度が安定化して薬が確実な効果を示すと考えてよいです。

1番目の定常状態には血中濃度半減期の4~5倍にわたって連続投与したときに達する、といいいますのは、 4時間で血中薬物濃度が半分になる薬の場合は、半減期の4時間ごとに連続投与していくと、約16時間~20時間で安定した効果が得られますと言うことです。 すなわち、投与間隔が半減期の5倍以上ある場合には定常状態が存在しないと言うことである。

2番目の薬物の消失にも半減期の4~5倍の時間を有する、というのは、 血中薬物濃度が半分になる半減期が4時間だったとき、約16時間~20時間経過すると、薬物は体内から消失していますよということです。

3番目は、
(投与間隔=半減期÷2)の時・・・定常状態最高血中濃度は、初回投与最高血中濃度の3.4倍
(投与間隔=半減期)の時・・・・ 定常状態最高血中濃度は、初回投与時最高血中濃度の2倍
(投与間隔=半減期×2)の時・・・定常状態最高血中濃度は、初回投与最高血中濃度の1.3倍

というように、半減期が4時間で投与間隔が8時間だった場合は、定常状態の最高血中濃度は、半減期の4時間ごとに投与した場合に比べると、定常状態最高血中濃度は低くなる。

それでは、投与間隔が1分ごとなど極端に短い場合は、100倍、1000倍を超える血中濃度になるのかと言うと、それはありえないでしょう。投与間隔が2倍であったとしても 非線形を描く以上、ある程度で頭打ちとなります。

4番目の2相性を示すグラフのβ相を用いる、というのは、ペオンのように急激に薬物濃度が低下(α相)した後は、徐々に濃度が下がっていく(β相)ような薬の場合、β相の方の半減期を指標とするという意味です。

これらの考え方を使うと、例えば中毒域の存在するジゴキシン(0.25mg)は、Cmax:1.68±0.45(ng/ml)、Tmax:0.9±0.2(hr)、T1/2(β) :30.1±7.8(hr)、有効域:0.8~2.0(ng/ml)(日本人は1.5以下が望ましい)であるので、半減期30hrの4倍は120hr、約5日間にわたって薬物が体の中 に存在していること、1日1回で24hごとに服用した場合時、約5日で定常状態に達することがわかる。

ジゴキシンは非常に分布容積の大きい(組織移行性が高い)薬剤であるので、血中薬物は服用後約1.7時間後に最高血中濃度に達した後、約5時間程度までで組織(特に筋肉) へと分布し(分布相:α相)、それから徐々に消失していき(消失相:β相)、約30時間後に半分が消失する。

1日1回服用だと有効域を超えてしまうのでは?と思う方もいると思いますが、一般に有効域の参考としての血中濃度は最高血中濃度(ピーク値)ではなく、トラフ値で みるので、心配はありません。

ステロイドの使い方

外用は、内服とは違い、添付文書上の薬物動態の項の内容がお粗末です。用法についても、1日1~数回というようにかなりアバウトな使い方が示されています。

外用ステロイドに対して、不安がある人が多いこのご時世、1日何回の使用なら副作用が出にくいのか?何時間空けて塗ればよいのか?など、ステロイド外用剤の薬物動態は結構知りたい人は多いと思います。

外用剤の場合は、塗布部位や塗布量、塗布面積により薬物動態が変わってくるためか、正確な薬物動態はわからないため、複数の添付文書をまとめて、なんとなくのデータを出してみました。

部位/密封(ODT)時間 30分 1時間 2時間 4時間 8時間
角質層
マルピギー層 ++
毛嚢壁(外側) ++ ++ ++
毛嚢壁(内側) ++ ++
皮脂腺 ++ ++
アポクリン腺細胞 ++ ++
アポクリン腺腔 ++
※リンデロンVG添付文書より抜粋

Cmaxの数値は塗布部位や塗布量により変わるので不明。

Tmaxは大体8時間~24時間。30分後には表皮に吸収されていて、その後徐々に真皮内へと移行し、24時間後では70%以上の薬剤が皮膚に貯留している。

T1/2は、血中から糞中排泄までの時間(50%排泄)が約48時間、皮膚上皮から血中までの時間(50%移行・分解)が24時間以上であることから、96時間(3日間)以上にはなるように思われる。

分解は、主として皮膚エラスターゼ、肝臓エラスターゼであり、排泄経路は糞中と尿中で、一部腸管循環をする。

また、これらのデータはODT(密封)療法であることと、おそらく体表面積の20~50%程度塗布した場合と考え、 まとめてみると、ステロイドの塗布は1日1回が望ましく、副作用が気になるなら3日間あけて部位を限定して塗布。ステロイドの体内からの消失には2週間はかかると言うこと?

最強のstrongest群の外用は5g(チューブ一本分)の連日使用により、副腎機能が抑制されることは治験の段階で立証されているため、注意する。

抗ヒスタミン・アレルギー剤の使い方

考え方は全て同じなため、よく使われる薬を例にして説明いたします。

アレグラ(塩酸フェキソフェナジン)の半減期は空腹時内服で9.6hrですので、その4~5倍の約40時間、服用を中止していると、薬物が体内からなくなってしまうと言うことになります。

同時に、定常状態に達するのも、40時間を越えたあたりからであり、もし、40時間より前に2錠目を服用しなければ定常状態には入りません。定常状態に入れるためには40時間たつ前に2錠目を服用しなければなりません。

仮に、9.6hrごとに2錠目を服用していくと、定常状態血中濃度は初回投与最高血中濃度の約2倍の濃度となります。大体アレグラは朝と夜の服用なので12時間ごとの投与と考え、定常状態血中濃度は2倍よりは低いと考えられます。

きちんと薬の効果を引き出すためには、1日2回は最低服用しておくべきです。

次に管理人も服用中のジルテックです。ジルテックの半減期は約7時間ですので、その4~5倍は約28時間です。28hで消失すると思いきや、添付文書上は24hで50%、1週間で70%排泄で蓄積性はないそうです。

服用回数のほうは、28時間以内には次の1錠を服用したいところですので、1日1回服用ないし、1日2回服用も問題ないように思います。ちなみに最高血中濃度到達時間は薬を飲んでから1.4hだそうです。

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