虚血性心疾患(狭心症と心筋梗塞)とは

虚血性心疾患とは心臓の冠動脈の動脈硬化を基盤として起こる一過性、持続性に心筋虚血を生じる病変の総称です。これには心筋梗塞と狭心症が含まれます。

狭心症

心臓に血液を供給する血管である冠動脈が狭く(冠攣縮)なり、供給される酸素量が不足し、胸骨後方の痛みや胸部圧迫を感じる。痛みの持続時間は数分~15分くらい。

労作時には出現せず安静時に出現する「安静時狭心症」と逆に安静時に出現せず労作時に出現する「労作性狭心症」に分けることができる。

安静時狭心症(冠攣縮性狭心症)

安静時、特に睡眠中の明け方に起こりST上昇を伴う(異型狭心症)。その発作の67%は自覚症状のない、無症候性の心筋虚血発作である。痛みは長く痛い。

突然の冠動脈の過収縮(冠攣縮)により一過性に血流が低下し心筋虚血を引き起こすことから冠攣縮性狭心症とも呼ばれる。主として心表面を走る太い冠動脈に生じるが、心筋内の微小冠動脈にも生じることが知られている。

冠攣縮の要因として、内皮機能異常(内皮細胞からの一酸化窒素産生の低下)が指摘されている一方、炎症が冠攣縮を惹起することも示されている。その機序は血管平滑筋のRho/Rhoキナーゼ系亢進に基づく過収縮が関与することが示唆されている。

  • ニトログリセリンにより速やかに消失する
  • 安静時(特に夜間から早朝にかけて)出現する。
  • 心電図上ST上昇を伴う
  • 過換気により誘発される
  • カルシウム拮抗薬によって抑制されるがβ遮断薬によっては抑制されない。

以上5つの条件を1つでも満たせば診断が可能。

発作はいつ起こるかわからないため、24時間ホルター心電図で心電図を記録することが有用であるが、過換気負荷試験(活発に過換気(25回/分以上を目安)を6分間促す試験)によって故意に負荷をかけて胸部絞扼感(こうやくかん)を生じさせることも行われる。

冠動脈造影で狭窄が見られない場合は、冠攣縮薬物誘発試験(冠動脈にアセチルコリンを注入する試験。血管内皮が正常であれば、アセチルコリンは血管内皮から平滑筋を強力に弛緩するNOを分泌させて血管を拡張させるが、内皮の剥離や障害があると平滑筋基直接作用し収縮させる)を行う。

喫煙が特に冠攣縮狭心症のリスクである(CO刺激による産生されたフリーラジカルが血管内皮障害を引き起こす)。ストレスや過度の飲酒も増悪因子

安静時狭心症の治療

第一選択がCa拮抗薬(ジルチアゼム、ニフェジピンは冠攣縮予防効果大)。発作が起こりやすい時間帯(大体寝る前服用)に最大血中濃度となるように服用する。

ニフェジピンは反跳性頻脈や低血圧が起こることがあるため、この場合ニソルジピン(バイミカード)やベニジピン(コニール)が使用される。

発作時にニトログリセリン等硝酸薬を舌下で投与する。β遮断薬は、冠攣縮を悪化させる可能性があり用いない。

労作性狭心症(器質的狭心症)

労作時、寒冷時、精神緊張時など心筋の酸素需要が高まるときのみ痛みを伴う。ST下降が見られる。

高脂血症や糖尿病等生活習慣病を起因とした動脈硬化による冠動脈の狭窄といった器質的狭窄病変を基盤とし、心筋への血流減少により運動時に胸部症状が生じる疾患で冠動脈硬化狭心症とも呼ばれる。

酸素需要が少ない安静時には症状が消失していることが多いため、運動負荷試験(トレッドミル、ダブルマスター、エルゴメーター他)によって心電図をとる。

労作性狭心症の治療

虚血性心疾患の再発等に効果のある薬(スタチン、アスピリン、β遮断、ニコランジル、ATⅡ拮抗薬、ACE阻害剤)と発作を予防する薬(ニトロやカルシウム拮抗薬、β遮断薬等)が使用される。

冠危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症は食事/運動・薬物療法で是正し、禁煙を続けている場合は禁煙することを徹底させる。

薬物療法のみで対処ができない場合、外科的手術(バイパス手術=血管の移植)や経皮的冠動脈形成術(PCI=足の付根か腕よりカテーテルを挿入しバルーンで広げるもしくは、ステントを留置する)が行われる。

冠動脈ステント留置術ではベアメタルステント(BMS)よりも、ステント表面に免疫抑制剤などをつけた再狭窄率が低い薬物溶出性ステント(DES)が用いられることが多い。

DES留置後はステント内血栓予防のために少なくとも12ヶ月はアスピリンとともにクロピドグレルを併用することが多い。(BMSは少なくとも1ヶ月)。その後も血栓症予防のために最低1剤の抗血小板薬を無期限に投与することとなっている(ガイドライン上ではアスピリンを残す)。

心筋梗塞

冠血管に生じた血栓によって血液供給不足の心筋が壊死を起こすことにより発症し、狭心症から進行する場合と、発作的に発症する場合とがあります。動脈硬化そのものではなく、動脈硬化により生成する偏心性のコレステロール等を含むプラークが破裂し、そこから出た物質が血液中の血小板と反応して血栓を形成することが原因。

痛みの持続時間は狭心症より長く、30分以上で数時間続くこともある。安静にしていても寛解しないのも特徴。STは上昇する。

心筋梗塞の治療

普段はアスピリン、チクロピジン、ジピリダモール、ワルファリンなどの抗血小板薬、抗凝血薬にて血栓形成を予防し、発作時の胸痛にはモルヒネ、不整脈にリドカインの静注が主として使用される。

また、冠状動脈にカテーテルを挿入し、X線造影し、冠状動脈の狭窄をみる冠状動脈造影(CAG)もよく検査に用いられます。 血液検査は心筋壊死を伴う心筋梗塞に用いられ、クレアチンキナーゼ(CPK)の上昇を見ます。

心電図について

狭心症、心筋梗塞ともにSTに変化が表れるので心電図が有効です。

冠血管が閉塞するとそれより先に血液が行かなくなり、その部分が虚血になる。虚血部位(障害部位)ではイオン交換ポンプが上手く機能せず、K+の細胞外への流出が減るため、細胞内電位が高くなり、ここから正常部位へ電流を流す(障害電流)。

この障害電流のせいで、心筋内側に虚血がある時は正常方向への電流が増し、基線が上がり、相対的にSTが下がっているように見える。労作性狭心症では完全に閉塞はしていないので心筋外側部分までは血液が届くものの、心筋内側まで血液が届かず、心筋内側部分だけの虚血が起こる。→ST下降。

心筋外側に虚血があるときは外側(電極と反対方向)への電流が増し、基線が下がり、相対的にSTが上がっているようにっ見える。安静時狭心症では、冠攣縮により心筋外側部分の虚血が一過性に起こる→STの急上昇。

さらに動脈硬化が進行すると、血管壁にたまったプラーク(コレステロール他)又は糖尿病による血管内皮のキズ等から血小板が凝集し、血管を完全に閉塞させる。これが心筋梗塞。

心筋梗塞では初期にT波の上昇(虚血による再分極の遅延)が起こり、ついでSTの上昇、異常Q波の出現と、T波の下降が起こります。

関連ページ

コメントor補足情報orご指摘あればをお願いします。

(件名or本文内でキーワード検索できます)



  • << 前のページ
  • 次のページ >>
ページトップへ