インピーダンスを複素数平面で扱う理由

インピーダンスZは、抵抗Rと誘導性リアクタンスXLと容量性リアクタンスXCを用いて、

Z=R+XL+XC

のように表すことができる。

これをコイルの自己インダクタンスL、コンデンサの静電容量C、角速度ωを使って複素数として整形して書き直すと、

Z=R+j(ωL-\(\large{\frac{1}{ωC}}\))[Ω]

と表すことができるとされる。

そして、この足し算は複素数平面上で行われるので、単純な足し算ではなく、ベクトル和で示される。

なぜ?と思う人のために、自分が躓いた点を踏まえて以降説明を書いていく。わかる人は適当に飛ばし読みしてください。

三平方(ピタゴラス)の定理

直角三角形において、斜辺の2乗は、他2辺の2乗の和に等しいというやつです。

C2 = a2 + b2

直角三角形の角度が上のような場合は、1:2:√3とか1:1:√2のように覚えましたね昔。

三角関数

sin、cos、tanです。ブランクがあるとこれの意味すら思い出せません。

  • sinθ=\(\large{\frac{b}{c}}\)・・・角度に面していない辺を斜辺で割った値
  • cosθ=\(\large{\frac{a}{c}}\)・・・角度に面している辺を斜辺で割った値
  • tanθ=\(\large{\frac{b}{a}}\)・・・sinの辺をcosの辺で割った値

変換でよく使うのが、

  • sin(θ+90°)=cosθ
  • cos(θ+90°)=-sinθ
  • sin(A+B)=sinAcosB + cosAsinB・・・加法定理(咲いたコスモス、コスモス咲いた)
  • cos(A+B)=cosAcosB - sinAsinB・・・加法定理(コスモスコスモス、咲いた咲いた)

微分は、

  • sinθの微分 → cosθ
  • cosθの微分 → -sinθ
  • e2x+1の微分 → 2e2x・・・指数関数で自然対数の微分は指数関数部分は変わらない

複素数平面

まず、2乗すると-1になる数=虚数=i(電気の世界では電流がiなのでjを使用)と定義する。i2=-1。

そして、実数部分+虚数部分(a+bi)のような、複素数平面上で座標を示す式のことを複素数と呼ぶ。

なお、複素数のベクトルの長さがL、ベクトルのなす角をθとすると、(a+bi)は、(Lcosθ+Lisinθ)のように角度を使って表すこともできる。

複素数平面ではXY平面にはない、角度(三角関数)回転を扱うことができる。

複素数の足し算と掛け算は、

  • 足し算・・・(a+bi)+(c+di)=(a+c)+(b+d)i
    計算はただ足すだけ。答えはベクトル和
  • 掛け算1・・・(a+bi)×(c+di)=ac+adi+bci-bd=(ac-bd)+(ad-bd)i
    計算はただ掛けるだけ。答えは2つのベクトルの長さを掛け算して、2つの角度を足したもの
  • 掛け算2・・・A(cos45°+isin45°)×B(cos30°+isin30°)=ABcos(45+30)+iABsin(45+30)

虚数iは複素数として、(0+i)(cos90°+isin90°)のように表すことができる。

例えば、複素数(3+2i)に虚数を掛けると、(3+2i)(0+i)=0+3i+0-2=-2+3iとなり、

90°回転させた場所にプロットされる。ベクトルの長さは虚数の大きさが1なので変わらない。

つまり、虚数を掛けるということは、複素数を90度回転させることに等しい。

角速度とラジアン単位

角度90°はラジアン単位では\(\large{\frac{π}{2}}\)と表すことができる。

πはもちろん3.14の円周率。

半径1の円だと円周の長さは2πなわけで、円の中心の角度は360度、この2つを対応させて、360度は2π[rad=ラジアン]と決めた感じ。1ラジアンは半径1の円で弧の長さが1になる角度のこと。

角速度ωの単位は[rad/s]で、円運動において1秒間に何ラジアン進むかを表す。

ω=2πf=2π×1(fは振動数で単位はHz=1/s)は、1秒間に360度動く円運動のこと。

ω=2πf=2π×2は、1秒間に720度、つまり2周する円運動のこと。

振動数=周波数fが50Hzの波は、1秒間に50回振動するので、50個の波ができる。

ω=100πとなり、1秒間に18,000度、50周する円運動のことである。

計算の際は、大体振動数はfのままとして扱われることが多いので、ω=2πfとして差し支えない。

交流電流を複素数で考えるメリット

交流のような正弦波は、複素数平面での等速円運動しているベクトルの高さの軌跡を描いたものともいえるので、両者の対比は非常に相性がいい。

インピーダンスZを複素数平面で、ベクトルの合成を利用して求めるということをやって、それの意味を先に考えようとすると、何をしているのかがわからなくなってしまうので、もっと基本的なところから考えていって最後に「だからか」となることを目指す。

RLC直列回路に交流電流を流した時の、抵抗、コイルコンデンサに流れる電流について考える。

なお、なんとなく理解を目標とするため、計算式の大部分は割愛する。

交流電流は電磁誘導の仕組みを利用して作られるので、発生する正弦波はファラデーの電磁誘導の法則から導き出せる。

誘導起電力V=-N\(\large{\frac{dφ}{dt}}\)

誘導起電力はコイルの巻き数Nに比例し、磁束φの時間変化に比例する。

この式をNを1として変形していくと、(だいぶ省略するけど)

V=V0sinωt

という正弦波の式が導き出せる。

V0は最大電圧、I0は最大電流、ωは角速度[rad/s]、tは時間[s]を指すものとする。

次に、抵抗、コイル、コンデンサがそれぞれ単体の回路(RLC直列回路ではない)に対してキルヒホッフの第二法則(電位差保存則)を適用させる。

  • 抵抗・・・V-RI=0 (オームの法則から)
  • コイル・・・V-L\(\large{\frac{dI}{dt}}\)=0 (コイルの自己インダクタンスVLの公式から)
  • コンデンサ・・・V-\(\large{\frac{Q}{C}}\)=0 (コンデンサの静電容量のQ=CVから)

上の式を、VにV0sinωtを代入し、電流Iについての式について解くと、

  • 抵抗・・・I=\(\large{\frac{V_0}{R}}\)sinωt
  • コイル・・・I=\(\large{\frac{V_0}{ωL}}\)sin(ωt-\(\large{\frac{π}{2}}\))・・・電圧に比べて電流の位相が\(\large{\frac{π}{2}}\)遅れる。
  • コンデンサ・・・I=ωCV0sin(ωt+\(\large{\frac{π}{2}}\))・・・電圧に比べて電流の位相が\(\large{\frac{π}{2}}\)進む。

sinの前の部分は、抵抗であればオームの法則:I=\(\large{\frac{V}{R}}\)より、\(\large{\frac{V_0}{R}}\)の部分は最大電流I0にも置き換えられるし、コイルとコンデンサも同じ形をしているので、抵抗の式でRに相当する部分は、抵抗のようなもの(リアクタンス)とみなすことができる。

  • 抵抗・・・VR0=RI0 (R=XR=レジスタンス)
  • コイル・・・VL0=ωLI0 (ωL=XL=誘導性リアクタンス)
  • コンデンサ・・・VC0=\(\large{\frac{I_0}{ωC}}\) (\(\large{\frac{1}{ωC}}\)=XC=容量性リアクタンス

次に、これらの式を電流を基準とした式に書き換える。

電流の正弦波の式を、I=I0sinωtとして、

  • 抵抗・・・VR=RI0sinωt
  • コイル・・・VL=ωLI0sin(ωt+\(\large{\frac{π}{2}}\))・・・電流に比べて電圧の位相が\(\large{\frac{π}{2}}\)進む。
  • コンデンサ・・・VC=\(\large{\frac{I_0}{ωC}}\)sin(ωt-\(\large{\frac{π}{2}}\))・・・電流に比べて電圧の位相が\(\large{\frac{π}{2}}\)遅れる。

電圧の位相は抵抗にかかる電圧V(赤ベクトル)が基本となり、そこが電流の位相(共通)となるので、コイルの電圧(緑ベクトル)は電流に比べて位相が\(\large{\frac{π}{2}}\)進んでる。

つまり、VL=ωLI0sin(ωt+\(\large{\frac{π}{2}}\))というのは、I0sinωtにjωLをかけたものと同じと言える。(jをかけると90度回転するため)。

そのため、誘導性リアクタンスや容量性リアクタンスはしばしばj付きで示されている。そしてjが入る数値は単純な足し算はできず、ベクトルの和を求めなければならなくなるので合成抵抗Zはベクトル和となる。

RLC直列回路で考えた場合、電流は抵抗、コイル、コンデンサ全てに同時期に同量流れるので、電流の正弦波の式及び位相は3者ともに同じ。位相は抵抗にかかる電圧の位相に等しい。

3者それぞれ電圧Vの位相が異なるので、それを踏まえて複素数平面上にプロットする。

この等速円運動をする複素数平面を、正弦波に直した時、ベクトルの長さがそれぞれにかかる最大電圧、ベクトルのsin成分(縦)が波の高さ(瞬時電圧)に相当する。

抵抗Rとコイル、抵抗Rとコンデンサは電圧の位相が90度ズレるので、90度ずらした位置に描く。ωtは交流電流の初期位相なので、時間が0ならωtは0°となる。

この3つの電圧の波ベクトルを足し合わせたものが、回路全体の電圧Vとなる。

合成電圧Vの最大電圧はV0、瞬時の電圧は合成ベクトルの高さである、V0sin(ωt+θ)となる。

ここでV0の値を三平方の定理を使って求めると、

V02=(RI0)2+(ωLI0-\(\large{\frac{I_0}{ωC}}\))2

I0は共通なので、くくってあげて、

V0=I0\(\sqrt{R^2+(ωL-\large{\frac{1}{ωC}})^2}\)

という形に変形できる。

この形は、合成電圧の最大値V0にオームの法則を照らし合わせると、Rの部分、つまり合成インピーダンスZが、\(\sqrt{R^2+(ωL-\large{\frac{1}{ωC}})^2}\)に相当することがわかる。

つまり、RLC直列回路の合成電圧の合成抵抗(インピーダンスZ)は、抵抗と各リアクタンスを複素数平面にプロットして、三平方の定理から導き出した合成抵抗に等しい。

インピーダンスを電圧と電流の比としてとらえれば、電流の位相が同じなら、電圧の位相情報はインピーダンスが持つことになるという事。

合成波の瞬時電圧V(紫ベクトルの高さ)は、最大値V0のsin成分なので、

V=I0\(\sqrt{R^2+(ωL-\large{\frac{1}{ωC}})^2}\)sin(ωt+θ)

となる。

合成波の瞬時電圧Vはその時間の個々の波の高さ(sin成分)を足し合わせたものであることがわかる。

瞬時インピーダンスZは、I0sin(ωt+θ)をとった\(\sqrt{R^2+(ωL-\large{\frac{1}{ωC}})^2}\)となるので時間に関わらず常に一定の値。

これは抵抗とコイルとコンデンサの位相差が90°であることが変化しないからで、位相がずれててもずれが変化しないなら一定の値で固定できるためで、sin成分の中の角度が時間により変化する波の高さを表す。

位相情報を含まない(sinも虚数jもつかない)単純な足し算(Z=R+XL+XC)、つまり、Z=R+ωL+\(\large{\frac{1}{ωC}}\)の値は、3つの波の位相(90°のズレ)が同じだった場合の合成抵抗を求めているということになる。

位相が90°ずれていて、波のように円運動にしたときに角度が変化するものの合成という状況に対応するために、複素数平面は相性がいいという事。

インピーダンスを複素数平面で扱う理由は、正弦波の動きは円運動として取り扱うことができ、それを座標としてあらわすのに複素数平面が適しているためで、その場で正弦波の動きを扱う前に、 抵抗、コイル、コンデンサの位相のずれは90°で固定されているから、電圧や電流と違って値が変化しない抵抗の値に組み込んでしまって構わないだろうということで、90度既に回転しているという情報を持たせて定数かしたみたいな感じだろう。

それを証拠に、合成波の電圧Vを表す式:V=I0\(\sqrt{R^2+(ωL-\large{\frac{1}{ωC}})^2}\)sin(ωt+θ)には、\(\large{\frac{π}{2}}\)という記述がsinの中にはない。

RLC回路で、合成電圧Vの90°のズレは合成インピーダンスZに織り込み済みいうこと。

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