緑内障の症状と治療

日本人の正常眼圧上限は約20mmHgとされるが、個人差はある。

緑内障の病理

主として房水の排出障害が原因で、眼圧が上昇し、視神経を圧迫→視神経が障害されて、視野が欠損する疾患。

一度視神経が障害されると元には戻らないため、早めの発見が鍵となる。

緑内障

一般に眼圧の上昇を伴う緑内障は、隅角が完全には塞がっていない開放隅角緑内障と隅角が完全に塞がっている閉塞隅角緑内障との2つに大別され、頻度は圧倒的に前者が多いです。

開放隅角緑内障の視野は最初こそ中央上あたり一部分の欠損ですが、ほっておくと徐々に詰まり、中央と端以外は全て視野が欠損、やがて失明に至ります(不可逆性)。

眼圧の上昇を伴わず、何らかの原因で視神経が傷害を受けて緑内障のような視野の欠損を起こすものを正常眼圧緑内障と呼んでいて、これが緑内障の7~8割を占める。

緑内障では視神経乳頭の特徴的な変化として、視神経乳頭の陥凹拡大がある。正常眼でも生理的な小さな陥凹があるが、緑内障眼では篩状板(しじょうばん)が後方に湾曲し、その部位で神経繊維が圧迫され傷害されることで陥凹が深くなる。視神経線維が乳頭部で傷害されることで、視神経線維の走行に対応した部位に視野障害が発生する。

目の構造について

下は瞼と眼球の図です。

眼の構造

眼球は前方面を1cm程度の透明な角膜(黒目)で覆われていて、後方に行くに従って表面は結膜に、下層は強膜(白目)に移行する。角膜と結膜は痛覚と冷覚のみを持つ。

結膜は、瞼に結合している瞼結膜、折り返しのU字型の部分の円蓋部結膜、強膜の上にかぶさっている球結膜の3つにわかれていて、緑内障の手術ではこの球結膜と強膜を切開して中の線維柱帯や虹彩の一部を切開します。アレルギー性結膜炎は瞼結膜と円蓋部結膜に主として見られる炎症です。

結膜と強膜の分岐部には線維柱帯があり、その奥にシュレム管があり、強膜上静脈へ眼房水を流す。ここが眼房水流出経路の主経路となっている。副経路はぶどう膜強膜経路である。

虹彩は水晶体に入る光の量を調節する。暗いところでは虹彩が開き、明るい時は虹彩が閉まる。虹彩の開閉は副交感神経支配の瞳孔括約筋(興奮→縮瞳)と交感神経支配の瞳孔散大筋(興奮→散瞳)により行われる。

毛様体は眼房水の産生と毛様体筋による水晶体の厚みを変えてピントを合わせる働きを担う。毛様体筋が収縮すると水晶体の厚みが増し、弛緩すると厚みが薄くなる。毛様体筋は副交感神経の興奮で収縮し、交感神経の興奮で弛緩する。

虹彩から毛様体、脈絡膜まで続く強膜内側の膜を合わせてぶどう膜と呼ぶ。

マイボーム線は脂質を分泌して涙液が蒸発するのを抑える。涙液は上眼瞼の涙腺で作られる。

最内層は網膜で覆われ、網膜の最も奥側に存在する視細胞(杆体と錐体)が光を感知して前面の視細胞へと興奮を伝え、視細胞は後頭葉の一次視覚野へと投射する。色の識別は錐体が行う。

緑内障の薬の作用点

個々の点眼薬の名前は、点眼薬一覧ページにて。

通常、毛様体にて産生された眼房水は、下図の矢印のように隅角へと移動していき、隅角へ到達した後、主経路である線維柱帯流出路を通ってシュレム管へと、そして一部は、副経路のぶどう膜強膜流出路から排出される。

ところが、虹彩が線維柱帯に密着してしまっていて眼房水の排出ができない場合(閉塞隅角緑内障)や隅角が開いていたとしても線維柱帯の目詰り等による排出障害(開放隅角緑内障)が起こった場合、眼圧が高まり緑内障が引き起こされる。

緑内障の薬の作用点

排出を促進する薬

この排出障害により溜まった眼房水を排出させる薬に、α1遮断薬、PGF2α誘導体、PGE誘導体、副交感神経作動薬(コリン作動、ChE阻害薬)、Rhoキナーゼ阻害薬があります。

α遮断薬

α遮断薬は、毛様体平滑筋のα受容体を介して毛様体筋を弛緩させることで、ぶどう膜強膜流出路からの眼房水排出を促します。

PGF2α誘導体

PGF2α誘導体は、角膜を通過しエステラーゼにより活性型のカルボン酸体になった後、FP受容体を介して、タンパク質を分解する酵素であるMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)の産生を促進し、ぶどう膜強膜の間隙コラーゲン等が分解されて眼房水の流出量が増加する説と毛様体平滑筋に作用し毛様体筋を弛緩させて流出させる説がある。

どちらであっても、ぶどう膜強膜流出路の流出を改善して作用を示す。

PGE誘導体

EP2受容体刺激作用により、線維柱帯流出路及びぶどう膜強膜流出路を介した房水流出が促進されることによると考えられている。

EP2受容体を選択的に刺激するため、FP受容体刺激薬にある色素沈着や多毛などの副作用が起きない。

手術などでレンズを取り除いて無水晶体となっている場合や、白内障オペでレンズ挿入術を行った患者へは黄斑浮腫の発現率が高まるため禁忌(白内障手術既往歴のある患者に禁忌)。

副交感神経作動薬

副交感神経作動薬は、ムスカリン受容体を介して毛様体筋を収縮させ、線維柱帯を広げてシュレム管からの眼房水流出を促進させるとともに、瞳孔括約筋を収縮させて縮瞳作用を示す。

Rhoキナーゼ阻害薬

PG関連薬のような副流出路からではなく、主流出路(線維柱帯-シュレム管流出路)からの房水流出を増大させる。副交感神経作動薬が毛様体に作用することによる副次的作用であるのに対し、これは主流出路の組織に直接作用するという。

Rhoキナーゼ阻害薬は、Rho/ROCK細胞内シグナルの伝達を抑制し、それにより、アクチンの脱重合、細胞骨格の収縮変化、線維柱帯細胞の形状変化をもたらす。

さらに、傍シュレム管結合組織では、線維柱帯細胞と細胞外マトリクスの接着に関与する種々のタンパク質に変化をもたらし、線維柱帯同士の結合を一時的に弱めたり、細胞外マトリクスの構造を変化させることで、房水流出抵抗が減少すると考えられている。

それらの作用により、シュレム管内皮細胞に到達する房水料が増加し、それにより巨大空砲が増加、シュレム管に移行する房水量が増加するという。

副作用としてRhoキナーゼ阻害作用に夜血管拡張作用により、点眼時に一過性の結膜充血(1-2時間)が起こる。

産生を抑制する薬

一方、眼圧を下げるために眼房水の産生自体を抑えるという方法もあり、これにはβ(1,2,3)遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬が用いられる。

β(1,2,3)遮断薬

非選択的β遮断薬は、眼房水を産生する毛様体のβ1,2,3受容体を介して、アデニル酸シクラーゼから始まる一連の機序によりNa+-K+ATPaseを阻害し、Na+の毛様体上皮細胞から後房への排泄とそれに伴うH2Oの排泄を抑制する。

優れた眼圧低下作用があるのでFP刺激薬と同様第一選択。

β1選択性が強ければ心不全に禁忌だし、β2選択性が強ければ喘息に禁忌。副作用は、一般的なβ遮断薬と同様で、呼吸困難など。

炭酸脱水酵素阻害薬

炭酸脱水酵素阻害薬は、H2O+CO2→H2CO3の可逆反応の酵素である炭酸脱水酵素(CA)を阻害することで、H+とHCO3-の生成を止める。

炭酸脱水酵素であり、炭酸脱水素酵素ではないので注意する。

H20から炭酸が発生する機序を考えると、炭酸脱水酵素阻害薬を使用するとH20が消費されなくなり、水が増えてしまうように感じてしまうかもしれないが、そこは本質ではなく、本質は水素イオン(H+)と重炭酸イオン(HCO3-)の発生を抑制して、これらが水とともに再吸収(水分の毛様体からの移動=房水の生成)されるのを減少させることにある。

すなわち、

  • H+とNa+の交換機構を不活性化→Na+と水の後房側への排泄抑制
  • HCO3-とNa+の共輸送の不活性化→Na+とHCO3-と水の後房側への排泄抑制

の2か所で眼房水産生を抑制する。(Na+動くところH2O移動あり。Na+と一緒に水の排泄を促進するので利尿薬に分類される。)

一般的には他の緑内障点眼で効果不十分な場合の第二選択薬として使用される。

アセタゾラミド(ダイアモックス錠)は、急性期に使用されるが、副作用として低カリウム血症やしびれを引き起こすので対症療法として使われている。

α2作動薬

α2作動薬はアドレナリンα2受容体(Gi共役型)に作用し、アデニル酸シクラーゼ→cAMP→Aキナーゼときて、NE遊離抑制作用による房水産生の抑制及びぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進により眼圧を下げる。

明確なエビデンスはないが視神経の保護作用についても報告されている。

主な副作用として、眼瞼炎、結膜アレルギー(使用開始から数か月後)、漸新世の副作用として血圧低下が発症することが多い。

その他の治療(レーザー、手術)

薬物以外の治療法としては、レーザー治療と手術がある。

レーザー治療は、閉塞隅角緑内障では虹彩に穴を開けて眼房水の流れを変えたり、開放隅角緑内障では線維柱帯に当てることで眼房水の排出を促進する作用があります。

手術は、閉塞隅角緑内障では下記図のように虹彩と強膜の間の隅角を無理やり開ける隅角癒着解離術や

眼の構造

線維柱帯を切開してシュレム管へ眼房水を流す線維柱帯切開術(トラベクロトミー)、線維柱帯や虹彩の一部を切除する線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)があります。詳しくはここのサイトがわかりやすいです。

(参考:日医大医会誌2012; 8(2)スズケンDIアワー目の辞典wkikipetia鈴木眼科医院、クレデンシャル2014.11.No.74)

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