下肢の浮腫の原因と治療

よく足がむくむと患者さんから言われますが、「なるべく足を上げておいてね」と言うだけであまりよくわかっていない自分がいるのでちょっと他の浮腫も含めてまとめてみました。

  • 局所性浮腫
    1. 下肢静脈瘤
    2. 深部静脈血栓症
    3. リンパ浮腫
    4. 血管神経性浮腫
  • 全身性浮腫
    1. 腎性浮腫(糸球体腎炎、CKD、ネフローゼ)
    2. 心不全
    3. 肝硬変
    4. 内分泌性浮腫(甲状腺機能低下、クッシング症候群)
    5. 栄養障害(脚気、ガン、悪液質、蛋白漏出性胃腸炎)
    6. 薬物性浮腫(NSAIDs、降圧薬、甘草、血糖降下薬)
    7. 特発性浮腫

下肢静脈瘤

下肢の血管には動脈と静脈があり、静脈は動脈より壁が薄く柔らかいのが特徴。

足の先まで届いた血液は、静脈を通って心臓に戻るわけですが、この静脈には大きく二種類(表在静脈:表面近くの静脈と深部静脈:内部の静脈)があって、これらの静脈には上まで戻った後に、重力で下に下がって行かないように内腔に弁があり、この弁が故障してしまうと、静脈血がどんどん下に下がっていってしまい、結果として下肢静脈瘤を引き起こします。下肢静脈瘤は二種類の静脈のうち表在静脈の弁の故障が原因の疾患です。

この状態が長く続くと、静脈が膨れて屈曲したり、コブのようになり、体表から目立つようになり、浮腫、だるさ、こむら返りなどの自覚症状が現れる。さらに進行すると湿疹や脂肪皮膚硬化症などのうっ滞性皮膚炎を合併し、重症化すると売った異性潰瘍にまで進展することがある。

原因

原因としては、立ち仕事や出産、遺伝、運動不足、肥満等が挙げられる。

女性は男性に比べて2倍程度起こりやすい。理由として皮下脂肪が多く、筋力が弱いので足の筋ポンプ作用が働きにくいことがあげられる。

妊娠時はホルモンの影響で静脈が柔らかくなり、静脈が拡張して太くなり逆流防止弁が閉じにくくなる。また、妊娠後期に胎児が大きくなると、腹部の静脈が圧迫されて血液が心臓に戻りにくくなって下肢静脈瘤が起こる。

立ち仕事では、静脈の圧力が高い状態が長時間続き、足の筋ポンプ作用が働かないため、下肢静脈瘤ができやすくなる。

下肢静脈瘤は遺伝する傾向があり、両親が下肢静脈瘤の場合、90%の確立で発症する可能性があると言われている。

運動不足や肥満、筋力不足で足のポンプの働きが弱くなると同様に下肢静脈瘤が起こりやすくなる。

治療

下肢静脈瘤は問診、視診、触診、超音波検査で診断する。超音波検査は血管の形状だけでなく、血液の流れ(逆流)も検査できる。

症状がなく、見た目が気にならなければ急いで治療する必要はないが、軽度から中等度の治療としては、弾力ストッキング、マッサージ、赤ブドウ葉乾燥エキス混合物の内服がある。

重度の静脈瘤の治療としては、ストリッピング手術、硬化療法、血管内治療等の外科的治療がとられる。

ストリッピング手術は静脈をワイヤーで引きぬく治療法。硬化療法は硬化剤(ポリドカノール)を静脈に注射して血管を閉塞させる治療法、静脈は1ヶ月程度で塊、その後、半年~1年かけて吸収される。血管内治療はレーザーや高周波で血管内を焼いて塞ぐ方法です。

薬剤師レベルですと、立ち仕事はなるべく避けて、ストッキングを履くようにして、休んでいる時も足を心臓近くまで上げておき、ねるときも足を上げて寝るようにする等の指導くらいしかできないのではないでしょうか。

静脈還流システム

表在静脈は体表付近を走る血管で、大伏在静脈と小伏在静脈がある。大伏在静脈は足首からふくらはぎ、大腿部の内側を経て足の付根で深部静脈とつながる。小伏在静脈は足首からふくらはぎを経て膝の裏で深部静脈とつながります。

深部静脈は下肢の中心を走る太い血管で、下肢の静脈血の約80%がここを流れている。深部静脈と表在静脈は穿通枝(せんつうし)と呼ばれる静脈でつながっている。

心臓から送り出された血液が静脈を通って重力に逆らう形で心臓に戻される、この流れを静脈還流と呼び、次の3つのシステムで制御されている。

  • 呼吸によって胸郭が拡大し、胸部の内圧が下がることで静脈血が心臓に戻るのを助ける。
  • ふくらはぎの腓腹筋とヒラメ筋が収縮と弛緩を繰り返して静脈を圧迫して、ポンプのように血液を押し上げる(筋ポンプ作用)
  • 静脈内の逆流防止弁が、押し上げた血液を逆流しないようにする。

(参考・引用文献:クレデンシャル2015.6治療のトリセツ)

深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)

深部静脈血栓症(DVT、エコノミー症候群)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせて、静脈血栓塞栓症(VTE)と総称され、治療は一体として行われる。

静脈は、四肢において深筋膜より深い部分を走行する深部静脈、皮下を走行する表在静脈、それらを連絡する穿通枝からなるが、これらのうち深部静脈に生じた血栓症がDVT。

DVTは左足では腸骨動脈が腸骨静脈の上にかぶさり圧迫されやすいので、左足に発症しやすい。

急性期の症状は、三大症候の腫脹、疼痛、色調変化。

Dダイマーは静脈血栓塞栓症に対する陰性的中率が非常に高く、正常範囲であれば静脈血栓塞栓症の可能性は低いため除外診断に用いる。DVTの診断の第一選択は静脈エコー検査である。

通常、腋窩静脈よりも中枢側を中枢型DVT、末梢側を末梢型DVTと呼び、中枢型深部静脈血栓症からの浮腫では抗凝固薬(DOACやワーファリン)の内服で治療する。ワーファリンの場合はPT-INRの測定が必要である。末梢型の深部静脈血栓症では基本的には静脈エコーでの経過観察、必要時に抗凝固療法を行う。

静脈血栓症は動脈血栓症と違いフィブリンによる血栓が主体であるため、抗凝固薬が使われ、動脈血栓症は血小板による血栓が主体であるためプラビックスのような抗血小板薬が使われる。この違いに注意する。

(参考:動脈血栓と静脈血栓の違い、答えられますか?、調剤と情報2021.10)

リンパ浮腫

歩き過ぎると、リンパの流れが悪くて足がむくむと言いますが、簡単にいえばそれです。沢山のリンパ液をリンパ管が処理しきれなくなり、結果として組織へ染み出し、浮腫を生じます。人によりなりやすさは違うようです(女性に多い)。

また、2次性として、乳がんや前立腺がん子宮がんの術後は、リンパ管やリンパ節の切除がなされることが多く、これも手足の浮腫を生じます。

治療法は、弾力ストッキング、マッサージ、温浴あたりになりますが、これもまた立ち仕事をなるべく減らして、寝るときは足を上げて寝るくらいしか指導のしようがなさそうです。

腎性浮腫

糖尿病腎症でしばしば見られるネフローゼ症候群では、低蛋白血症(血中TP低値)、低アルブミン血症(血中Alb低値)から血漿膠質浸透圧が低下し、間質に水分が移動するため浮腫を生じる。もちろん尿蛋白も++である。

間質への水分の移動により血液中の水分量が不足していることが多く、安易な利尿薬の使用は腎機能障害の進行を引き起こすので注意が必要(具体的にはCre値の管理)。なお、ループ利尿薬の作用部位がヘンレ上行脚であり、その後の遠位尿細管で代償的に再吸収が増加して効果の減弱が起こることがあるのでサイアザイド系やK保持性利尿薬を併用するとなお良い。

慢性腎機能障害(CKD)でも過剰な水分や塩分を摂取すると浮腫を呈することが多い。この場合は塩分制限や利尿薬の使用が望ましい。

心不全

心不全は、心臓の様々な機能障害により、歩くときにすぐゼーゼーしてしまったり、ひどい時は安静時でもゼーゼーしてしまう、そんな疾患です。別に心臓が止まっていることを指す言葉ではありませんね。

で、原因が何にしろ心臓が弱ると心拍出量が低下し、静脈系のうっ血により静脈圧が上昇し、間質への水分移動から浮腫を生じる。これが心不全の浮腫です。

心不全では抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が増加しているため、合わせて低ナトリウム血症を生じている症例ではバソプレシンV2受容体阻害薬(サムスカ)が適応になる。

心筋保護作用のあるスピロノラクトンも用いられる。

肝硬変

肝炎や肝硬変では、肝臓が悪いのでタンパク質(アルブミン)の産生が上手くなされず、血管の浸透圧が下がり、組織へ水分が染み出し浮腫を生じます。

肝硬変では血漿アルドステロン濃度が上昇するため、フロセミド等ループ利尿薬に加えてスピロノラクトン併用する。またバソプレシンV2受容体阻害薬もしばしば使用される。

内分泌性浮腫

甲状腺機能低下症の浮腫は圧痕を残さないことが特徴。これは組織間液が多量のムコ多糖類、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などを含み、流動性が乏しいことによる。

甲状腺機能亢進症でも浮腫を伴うことがあり、心機能低下、異化亢進による低アルブミン血症が原因である。

クッシング症候群の浮腫はヒドロコルチゾンによるNa吸収増加と異化亢進による低蛋白血症が関与している。

いずれにせよ現病の治療が第一である。

薬物性浮腫

浮腫に関連する代表的薬剤として、トラゾドン、MAO阻害薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、ヒドララジン、メチルドパ、アシクロビル、シクロフォスファミド、シクロスポリン、インターフェロンα、副腎皮質ステロイド、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、セレコックス、イブプロフェン等がある。

特発性浮腫

検査で器質的異常がない原因不明の浮腫。ストレスやホルモンバランス等。除外診断。

  • 参考文献:PharmaTribune2015.5浮腫

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