エンレストの作用機序
2020年にサクビトリルとバルサルタンの複合剤であるエンレストが発売になった。
バルサルタンのアンジオテンシンⅡ抑制による血管拡張作用に加えて、サクビトリルの活性代謝物がネプリライシンを阻害することで、心不全で上昇するANPやBNPを逆に上げてレニン-アンジオテンシン系に拮抗する作用を示す。
レニンから始まるレニン-アンジオテンシン系は、アルドステロン分泌促進(Na貯留)、血管収縮、心血管リモデリング、飲食・食塩嗜好性、ACTH・AVP分泌、活性酸素産生を促し、ナトリウム利尿、脂肪分解、筋力・持久力、ミトコンドリア合成には抵抗する。
ANPはこのレニン-アンジオテンシン系に拮抗する作用を示すので、結果として、アルドステロン分泌を抑制したり、血管拡張作用、利尿作用、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)抑制作用、交感神経抑制作用、心肥大抑制作用、抗線維化作用を示す。
ネプリライシンはペプチド分解酵素であり、ANP以外にアンジオテンシンⅠとⅡやブラジキニン等のペプチドも分解するので、これを抑制するサクビトリルはANPによる血管拡張等に加えて、アンジオテンシン類の活性化による血管収縮、ブラジキニンの上昇による空咳や血管浮腫が起きる(ブラジキニン自体の作用は血管拡張の良作用)。ナトリウム利尿による多尿はさほど気にならないようだ(実際の聴取にて)。
すなわち単剤だとアンジオテンシンを自身で打ち消しあうため効果が乏しく、そのためにバルサルタンをやや大目に配合している。
血圧の薬としての効果は、エンレスト200㎎はオルメテック20㎎に比較して優位に血圧を下げ、エンレスト200㎎はバルサルタン160mgと比較しても優位に血圧を下げるというデータが出ている。
興味深いのは、ネプリライシンは上記以外に、βアミロイドの分解やGLP-1の分解にも関わっていること。
βアミロイド分解の方は、エンレストがBBBを通過しないためアルツハイマーの病態を悪化させることはないとのことなので大丈夫。
GLP-1の方は、結果としてインスリンが増えるので他の糖尿病薬を減らすことができるとのこと。
ANPとBNPはAタイプの受容体(NPR-A)に、CNPはBタイプの受容体(NPR-B)に結合し、ともにGTP→cGMPにて心保護によい作用を示す。
また、ANP、BNP、CNP全てはCタイプの受容体(NPR-C)に結合し、逆の作用、すなわちナトリウム利尿ペプチド等を分解し再利用する。
心筋虚血状態になると心筋の心室から前駆体のpre-proBNPが産生され、すぐにFurinにより分解を受けて、アミノ末端(N末端)側のNT-proBNPとカルボキシ末端(C末端)側のBNPとなる。
NT-proBNPには活性がなく、ネプリライシンによる分解を受けないので、血中半減期が約120分と長い。
BNPはNRP-Aに結合し神経体液性因子の活性化、NRP-Cに結合し分解、ないしはネプリライシンにより分解を受けるため、血中半減期が約20分と短い。
このような半減期の違いが、血中濃度比率の差(>6:1)となって現れる。
その他、
- ARNIは左房を小さくする
- 心不全においては血圧は120以下でコントロールがベストなので、高血圧の適応を持つエンレストは進行予防に使いやすい。
- ARNIは利尿薬を減らせるので腎臓に良いし、腎機能が悪い人にも使いやすい。
- HFpEFは色々な要因が考えられるので、原疾患の治療が先に必要。エンレストはHFpEFにも使用可能。
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