高血圧の薬(降圧薬)
高血圧の薬の種類
高血圧の薬は作用機序の違いで下記のように大きく7種類に分類することができます。
- カルシウム拮抗薬・・・食塩感受性高血圧、頻脈、狭心症、脳
- β遮断薬・・・心不全、頻脈(AF含)
- ARB/ACE阻害薬・・・心不全、腎障害
- 利尿薬・・・心不全、腎障害は浮腫や微量アルブミン尿あれば
- α遮断/α2作動薬・・・前立腺等
- レニン阻害薬・・・ラジレス(アリスキレン)
- 上複数の配合剤
その全てが血管を広げて血圧を下げることには変わりがないですが、カルシウム拮抗薬であれば最終的に血管を広げるスイッチを阻害するし、α遮断薬とβ遮断薬であれば血圧を上げるノルアドレナリンがくっつく受容体をそれぞれ遮断して、ARBとACEは腎臓で腎血流を維持するための生理物質が血圧を上げてしまうのでそれを遮断、利尿薬は血液中の水分を外にだすことで血管に掛かる負荷を軽減することで血圧を下げます。
このように、高血圧の薬は作用機序が異なれば作用点が異なるため、全ての種類の薬を重ねて使用することができます。
重ねて使用することができるゆえ、複数の高血圧の薬を配合した配合剤が近年続々と製薬メーカーから販売されています。配合剤を使用するメリットは、服用する数を減らすことばかりでなく、2種類のうちの1種類の薬の値段がゼロになりもう一種類に組み込まれる形になるため、値段的にもお得です。
なお、ニトログリセリンをはじめとする硝酸薬もNOを介してGキナーゼを活性化して血管を弛緩させるが、通常血圧の薬として使われない。
これは、硝酸薬が主に冠動脈の拡張作用(冠攣縮を抑制する作用)と末梢血管においては静脈の拡張作用を持ち、末梢の動脈拡張作用が弱いことや、硝酸薬の連続使用で耐性が起こることがあること、持続的な使用で頭痛や顔面の紅潮などの副作用が起やすいこと等が理由である。
※冠攣縮(かんれんしゅく)は、冠動脈が一時的に異常に収縮することを指します。この収縮により、血流が一時的に減少または遮断され、心筋に十分な酸素や栄養が供給されなくなることで狭心症の症状が引き起こされます。通常、安静時や夜間に発症します。これは、労作性狭心症とは対照的です。
高血圧の薬の使い方
- 単剤で低用量から開始する。
- 1日1回服用でよい長時間作用型の降圧剤を使用する。
- 2~3ヶ月以内に降圧目標に達することを目指す。
- 到達しない場合は、他の種類の降圧剤を併用する。
- 利尿薬の少量投与は他の降圧剤の作用を強めるので3剤目に利尿薬を用いることを原則とする。
- ※急な血圧上昇への第一選択は速攻型のアダラートカプセルではない(反跳性の血圧上昇)。噛んで服用は適応外。なるべく中時間型の薬剤。おすすめはコニールやアダラートL。CRだとやや長いか。ノルバスクはない。
(図:大日本住友 JSH2009概要より引用)
圧負荷と容量負荷
血圧はオームの法則のように血圧=血流×抵抗の式が成り立ち、血流は塩分過多による血管水分量の増大、抵抗は高コレステロール等の影響も含めた血管への圧力の増大、すなわち、血圧を下げるためには容量負荷を下げるか、血管を拡張して圧負荷を下げるかということになる。
- 圧負荷の増大(高レニン・低ANPの状態)・・・、ARB、β遮断、Ca拮抗薬が使われる。代表的疾患は悪性高血圧、褐色細胞腫(副腎髄質に異常でカテコラミンが過剰分泌)等が該当。
- 容量負荷の増大(低レニン・高ANPの状態)・・・食塩感受性では容量負荷を伴うが血液量の増加により血管内の圧力が上昇し、結果として圧負荷も高まる可能性があります。
利尿薬、Ca拮抗薬が使わます(サイアザイド系利尿薬は食塩感受性が高い方が効きが良く、ARBは効きが悪くなる傾向があります)。代表的疾患は原発性アルドステロン症等が該当。
レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変換する血管収縮ホルモンなので、これが上がると、血管収縮、心血管リモデリング、アルドステロン分泌、飲食・食塩嗜好性、ACTH・AVP分泌、活性酸素産生らの作用が亢進し、ナトリウム利尿、脂肪分解、筋力・持久力、ミトコンドリア合成には抵抗する。(レニン-アンジオテンシン系)
ANP・BNPのようなナトリウム利尿ペプチド系(血管拡張ホルモン)はレニン・アンジオテンシン系に完全に拮抗する(逆の)作用。心臓負荷で生成し、BNP100以上が心不全が疑われる。
※心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)。ANPは心房、BNPは心室、CNPは血管内皮細胞・骨細胞から分泌
合併症別の高血圧積極的適応
Ca拮抗薬 | ARB/ACE阻害薬 | サイアザイド | β遮断 | |
---|---|---|---|---|
左室肥大 | ○ | ○ | ||
心不全 | ○ | ○ | ○ | |
頻脈 | ○ (非DHP系) |
○ | ||
狭心症 | ○ | ○ | ||
心筋梗塞後 | ○ | ○ | ||
CKD (蛋白尿-) |
○ | ○ (蛋白尿+も) |
○ | |
脳血管障害 | ○ | ○ | ○ | |
糖尿病 | ○ |
心不全を合併する場合
心不全では、心臓の働きが悪くなって心拍出量が低下し、体液が貯留、そして、そのポンプ機能を補うためにレニンアンジオテンシン系を亢進させて血圧を上昇させます。
体液量(前負荷)を減少させる利尿薬、後負荷を減少させるACE阻害薬やARBが主として使用され、これらが配合されたARNIが第一選択となっています。
β遮断薬は少量から開始するアップストリーム治療で心臓機能を長期的には回復させる。
MRAはアルドステロンが心臓の繊維化にかかわるので、ARNI使用でむくみが取れないもしくは血圧が下がらない場合などに使用。
糖尿病、CKDを合併する場合
AKIとCKDのページ参照。
数値としては、75歳未満は130/80mmHg未満、75歳以上は150/90mmHg未満が推奨。
腎臓が悪くなる(ろ過量が低下する)と、腎血流量を増やすために、レニンが分泌されて血圧を上昇させるため、食塩ではなくレニン感受性を低下させるARBやACE阻害薬が第一選択となる。
利尿薬は体液過剰がなければ無理に使用しないが、尿アルブミンの改善のために微量アルブミン尿が検出された時点でケレンディアを投与することもできる(ただしK値に注意)。
高脂血症を合併する場合
高脂血症を合併する場合は、脂質代謝改善作用(血清コレステロール減少、HDL増加作用)を有するα遮断薬が適する。
前立腺肥大を合併する場合
前立腺のα受容体も遮断して、排尿困難症状を改善するα遮断薬が適する。
脳血管障害を合併する場合
血圧が上昇すると脳血流量が上昇するが、血圧が低下すると反対に血流量が減少して虚血(酸素不足)によるめまい、ふらつき感を生じる。
脳血管に障害があると、血流量の自動調節能が狂い、わずかな血圧低下でも血流量が減少して虚血を招く。よって、脳血管障害がある場合は、安易に降圧剤を使用しない。血流改善薬とCa拮抗薬の併用がベター?。
狭心症を合併する場合
安静時(冠攣縮)狭心症には、長時間型のCa拮抗薬を第一選択として用い、労作性狭心症にはISA(-)のβ遮断薬(が適する。
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