心不全の治療薬一覧

心不全の薬の使い方

急性心不全では、血圧低下が著しい時はカテコラミンを用い、肺うっ血~肺水腫があるときは、前負荷を軽減する薬物(フロセミド、ニトログリセリンなど)さらには強心薬を用いる。不整脈が急性心不全の原因又は悪化因子となっている場合は抗不整脈薬を用いる。

慢性心不全の場合、基本は非薬物療法(塩分を控える、適度な運動、適度な体重)で、その上で軽症・重症問わずレニン・アンジオテンシン系を抑制するACE阻害薬やARB→ARNIが第一選択薬となる。これでも改善が見られない場合は、利尿薬、MRA(非ステロイド型選択的ミネラルコルチコド受容体拮抗薬)、SGLT2阻害薬、ジギタリス製剤、β遮断薬(水溶性のアテノロール等ではなく脂溶性のビソプロロール)、αβ遮断薬、血管拡張薬(硝酸薬)、HCNチャネル阻害薬(イバブラジン)、sGC刺激薬(ベルイシグアト)が併用される。

また、心不全はCKDと密接に関わり、どちらかがあるとどちらかになりやすいことがわかっているため、心不全の治療を行う際はGFRや貧血の治療も同時に行うことが結果的に心不全の治療を行うことにつながる。そういう意味でSGLT2阻害薬の立ち位置がかなり上がったことも納得できる。

ARNI、MRA、β遮断薬、SGLT2阻害薬の4剤をFantastic Fourと呼び、HFrEF治療の第一選択(洞調律かつ心拍数75回/分以上の省令でイバブラジンの追加投与を、基本4剤で効果不十分の場合、血管拡張薬やベルイシグアト追加を、うっ血があれば利尿薬、不整脈があれば抗不整脈薬を追加検討する。)。ARB/ACE+β遮断に比べて生存率を5~10年延長させることがわかっている。

常用量では心不全を悪化させるβ遮断薬も、少量から徐々に増量していくアップストリーム治療により長期的に低下した心臓機能を回復させる。

利尿薬は体液量を減少させ前負荷を軽減させ、ACE阻害薬は血管弛緩による後負荷、アルドステロン抑制による前負荷を減少、ジギタリス製剤は強心作用と、心拍数の減少により心不全を治療する。

SGLT2阻害薬は間質性浮腫をメインに除去すると共にエリスロポエチン分泌作用等にて慢性虚血を防ぎ長期的に腎機能だけでなく心機能も改善する。ループ利尿は間質性浮腫と血管内の水分を両方除去するため脱水のリスクが高くなる。

症状改善(併用)薬 予後改善(基本)薬
HFrEF ループ利尿薬
バソプレシンV2受容体拮抗薬
硝酸薬
強心薬
ACE阻害薬、ARB、ARNI
β遮断薬
SGLT2阻害薬
MRA
HFpEF ACE阻害薬、ARB、ARNI
β遮断薬
MRA
ループ利尿薬
バソプレシンV2受容体拮抗薬
硝酸薬
強心薬
SGLT2阻害薬

ジギタリス製剤

Na-K-ATPaseを阻害することでNa-K交換機構を阻害し、相対的にNa-Ca交換機構が活発になり、心筋細胞内へCaの流入が起こって心筋が収縮する。グレープフルーツの摂取で血中濃度↑。吸収が遅いので消化管運動↑にて吸収率↓。セントジョーンズにて血中濃度↓。

  • ジゴキシンKY、ハーフジゴキシンKY(ジゴキシン) ACE阻害薬と利尿薬で効果のない患者に用いる。陽性変力、陰性変伝導(上室性頻脈性不整脈を合併している場合は有用)により、うっ血の改善、AF等での頻脈を改善する。
  • ジギトキシン(ジギトキシン)・・・ジゴキシンに同じ
  • ラニラピッド(メチルジゴキシン)・・・吸収は速やかでジゴキシンの約2倍薬

ACE阻害薬

動脈を拡張し、後負荷を改善する。心不全だけでなく腎不全による腎血流量低下からのレニン分泌を抑制できので心保護・腎保護作用。アルドステロン拮抗作用によりNaの再吸収を抑制し血圧を下げ、前負荷も改善する。またアルドステロンが心臓や腎臓の繊維化、炎症に関わり心肥大等を引き起こすため、これらを抑制することが心保護・腎保護につながる。

  • タナトリル(イミダプリル)
  • レニベース(エナラプリル)
  • アデカット(デラプリル)
  • インヒベース(シラザプリル)
  • コナン(キナプリル)
  • エースコール(テモカプリル)
  • コバシル(ペリンドプリル)

ARBとARNI

ARBエンレストを参照。

β遮断薬とαβ遮断薬

慢性心不全の適応はメインテートとアーチストが持ち、β1選択性が高いメインテートは心機能抑制力が強いので中等度の心不全に、β1選択性が低いアーチストは血圧が高く、重度の心不全の患者等に用いられる。

利尿薬

サイアザイド系(チアジド系)

腎尿細管再吸収など、利尿作用が弱く、主に降圧剤として使用される。

塩分摂取量が多い患者の場合、RA系が活性化していないのでARB/ACE阻害薬の効きがイマイチなのことが多いのでこれが適応となる。高尿酸血症にも注意する。

遠位尿細管のNaポンプ(Na-Cl共輸送系)を阻害→Na, H2O再吸収抑制→相対的にNa-K交換機構活性化

  • フルイトラン(トリクロルメチアジド)・・・低K血症は少量投与やAT2、ACE阻害薬との併用でかなり予防できる。高血圧には1日1回の少量投与。浮腫には1日2回投与おk。
  • ダイクロトライド(ヒドロクロロチアジド)

非チアジド系利尿薬

チアジド系と同じ機序だが、チアジドではない薬剤。

  • ナトリックス(インダパミド)・・・尿中へのK排泄がチアジド系よりも少ない。
  • バイカロン(メフルシド)

ループ利尿薬

利尿作用が最も高く水と一緒に電解質も排泄するので低Na血症、低K血症に注意する。急性期にはカリウムを細胞内へ留めやすい塩化カリウムを、慢性期にはカリウムの細胞内以降性の高いカリウム塩のLアスパラギン酸カリウムやグルコン酸カリウム等を用いる。

降圧作用は弱いが腎機能を悪化させにくい。降圧目的で使われていた場合重度のCKDである可能性が高い。

ヘンレ上行脚でNa、Cl受動的再吸収抑制→尿の濃縮・希釈機構の抑制→相対的にNa-K交換機構活性化

朝食、朝昼後に服用の1日1~2回が多い(夜は不眠を招くため)。昇圧アミンに対する血管壁反応性低下→手術前慎重投与。

  • ラシックス(フロセミド)・・・高血圧、浮腫に適応。
  • ルプラック(トラセミド)・・・浮腫のみに適応
  • ダイアート(アゾセミド)・・・うっ血性心不全、浮腫に適応

MRA(ミネラルコルチコド受容体拮抗薬)=K保持性利尿薬

まとめるとこの部類になるが、それぞれ微妙に作用点が異なる。

カリウムを保持して水分とNaを排泄するので、高カリウム血症に注意する。高カリウム血症の治療にはカリメート等のカリウムイオン交換剤が使用される。GI療法ではインスリンがカリウムを下げる働きがあることを利用するが、低血糖のリスクに注意するためグルコース・インスリン療法と呼ばれる

アルドステロンは心臓や腎臓の線維化に関わるため、心不全による浮腫でよく使用される。また総合的に血圧を下げる作用があるので高血圧にも使用される。他利尿薬で低K血症になりがちな患者にも使用される。

  • アルダクトンA(スピロノラクトン)・・・利尿作用も降圧作用も弱い。
    遠位尿細管~集合管のアルドステロン受容体に拮抗→Naチャネル遮断→遠位尿細管のNa-K交換機構不活性化→Na、H2O再吸収抑制
    うっ血性心不全に適応あり。
    鉱質コルチコイド受容体だけでなく、アンドロゲン受容体やプロゲステロン受容体に対する親和性もあるため、女性ホルモン様作用(女性化乳房他)が起こることがある。対策はセララ切り替え。
  • トリテレン、ジウテレン(トリアムテレン)・・・アルドステロンと無関係に直接尿細管に作用する。
  • セララ(エプレレノン)・・・非ステロイド。最初のSAB(選択的アルドステロンブロッカー)。1日1回。Tmax:1.46h、T1/2:5h。 アルドステロンは、 腎などの上皮組織並びに心臓、血管及び脳などの非上皮組織における鉱質コルチコイド受容体に結合し、ナトリウム再吸収及びその他の機序を介して血圧を上昇させる。
  • ミネブロ(エサキセレノン)・・・非ステロイド。ミネラルコルチコイド受容体の活性化を抑制することで、降圧作用を発揮するものと考えられる
  • ケレンディア(フィネレノン)・・・非ステロイド性選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬。炎症及び線維化等を引き起こすMR受容体の活性化を抑制することで心血管・腎臓傷害を抑制する。用量が少ないため、血圧を下げる働きは弱い(用量を増やせば血圧も下がるかも)。
    血清カリウム値及びeGFRに応じて用量を調節する。1日1回。2型糖尿病を合併したアルブミン尿(UACR≧30㎎/g)が検出された患者が適応(UACRは尿中アルブミン/クレアチニン比)。
    CKDでなくてはならず、CKDと判定してしまうと、アルブミン尿の検査は出来なくなることがデメリット(タンパク尿の検査はできる)らしい。
    SGLT2阻害薬と同じように、投与後一時的にeGFRが悪化するが、長期ではよくなる。
    重大な副作用は他のと同様高カリウム血症。カリウムが排泄しにくいCKDで使うのはどうなのだろうかといつも思う。

K保持性利尿薬であるスピロノラクトンの作用機序は、Na-K交換機構のアルドステロン受容体に拮抗することで、Na+の血液中への再吸収を抑制して血圧を下げるというものであるが、 SAB(選択的アルドステロンブロッカー)は、このNa-K交換機構のアルドステロン受容体だけでなく、その他の組織のアルドステロン受容体にも作用し、結果的にアルドステロンによるNa貯留を抑えるばかりか、アルドステロン→ Na貯留から起こるレニンへのネガティブフィードバックも抑制することができる。

レニンは、レニン-アンジオテンシン系の図からもわかるとおり、最終的には”血圧を上げる”物質ですので、レニンが少なくなれば、血圧が常に下がっている状態が保てるわけです。

一方、日本人のように食塩の摂取量が多い場合は、食塩の摂取量が多い=Na+が多いことを意味するので、ネガティブフィードバックをかけずしてレニン活性は低下しています。

このような食塩によって誘発される低レニン高血圧は、食塩によって血圧が上昇しているので、アルドステロンやアンジオテンシンらの作用で血圧が上がっているときとは違って、ACE阻害薬、ATⅡ拮抗薬など他の降圧剤は効きにくいといわれますが、SABはこのような低レニン型の高血圧であっても優れた降圧作用を示すといわれています。

つまり、SABは食塩摂取量の多い低レニン型の高血圧患者さんに適しています。

利尿剤以外の降圧剤との併用は問題ないですが、今主流のACE阻害orATⅡ拮抗薬+利尿剤の組み合わせよりも、ATⅡの腎保護、心保護作用がない分、分が悪いのかもしれません。

併用禁忌薬としては、K保持性利尿薬と同じようにK+貯留を招くゆえ、カリウム製剤、そして、CYP3A4で代謝されることから、イトリゾールと併用不可、GFJ(グレープフルーツジュース)はなるべく一緒にとらないように伝えます。

SGLT2阻害薬

フォシーガはHFrEFにしか使えないが、エンレストやジャディアンスはHFpEFにも使うことができる。

フォシーガの能書によると、心保護作用はSGLT2阻害による浸透圧性利尿作用及び血行力学的作用に加えて、心筋線維化への二次的作用が関連している可能性がある。また、NLRP3依存性インフラマソームの活性化抑制作用が、心室への有益な作用をもたらす機序の一部である可能性が示された。とされている。

フォシーガ能書では、腎保護作用については、SGLT2阻害により、遠位尿細管に到達するナトリウム量が増加し、尿細管糸球体フィードバックが増強されることで糸球体内圧が低下することが関連している可能性がある。また、上記の作用が浸透圧利尿による、体液過剰の補正、血圧低下、前負荷及び後負荷の軽減等の血行動態の改善作用と組み合わさって、腎灌流を改善することが関連している可能性があるとかかれている。

HCNチャネル遮断薬

HCN(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性)チャネル遮断薬であり、洞結節のペースメーカー電流Ifを構成するHCN4チャネルを阻害し、活動電位の拡張期脱分極相における立ち上がり時間を遅延させ、心拍数を減少させる。

洞結節の自動能形成(ペースメーカー)に寄与する電流は、If(過分極活性化陽イオン電流)と呼ばれ、主にHCN4 チャネルにより形成される。→心電図についても参照。

  • コララン(イバブラジン)・・・洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全。ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
    イバブラジンは、HCN4 チャネルを阻害することで If を抑制し、拡張期脱分極相における活動電位の立ち上がり時間を遅延させ、その結果として心拍数を減少させる。
    心拍数を下げて(60~70回目安に)心不全の再発を抑制し生命予後を改善するエビデンスを持つ。β遮断薬では血圧が下がってしまうので十分量まで使えないが、イバブラジンは血圧に影響しないので使いやすい。

カテコラミン製剤

急性心不全で心収縮力増強に用いる。

  • イノバン等(塩酸ドパミン)・・・注射剤。β刺激
  • ドブトレックス(塩酸ドブタミン) ・・・注射剤。β1刺激
  • タナドーパ(ドカルパミン)・・・β1刺激、DA刺激
  • プロタノールS(イソプレナリン)
  • カルグート(デノパミン)・・・β1刺激、カテコラミン類似

血管拡張薬、sGC刺激薬

心血管系のシグナル伝達「一酸化窒素(NO)-可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)-環状グアノシン-リン酸(cGMP)」に関わる薬剤。心不全でNOやsGCのNO利用脳が低下して組織中cGMP量が低下して心筋や血管機能が低下するのを防ぐ。

  • ベリキューボ(ベルイシグアト)・・・可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を直接刺激作用と内因性NOに対するsGCの感受性を高める作用により細胞内cGMP濃度を上昇させて血管平滑筋細胞において血管拡張作用や抗リモデリング作用を示す。
  • 硝酸薬・・・アイトロール(一硝酸イソソルビド)とシグマート(ニコランジル)は狭心症のみの適応、ニトロール(硝酸イソソルビド)は狭心症/心筋梗塞/虚血性心疾患の適応

その他

  • ノイキノン(ユビデカレノン)・・・酸素利用率改善薬、CoQ、軽度および中等度のうっ血性心不全に使用される。 胆汁酸塩で乳化されて吸収されるので食後に服用する。
  • アカルディ(ピモベンダン)・・・PDE阻害薬。心不全の急性と慢性の両方の効果。心筋の収縮調節蛋白のCa2+感受性増強作用
  • アーキンZ(ベスナリノン)・・・PDE阻害約。慢性心不全で他剤で効果が出ない場合に使用する。心拍数を増大することなく、心筋収縮力を比較的選択的に増大する。

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