肺高血圧症の原因と治療
肺高血圧症とは、何らかの原因で肺血管床(肺毛細血管の総表面積)の50~60%以上に障害がおきる疾患で、通常、右心カテーテル検査において平均肺動脈圧が25mmHg以上となる。
初期の段階では右心機能は保たれているが、25mmHgを超えるとそれだけで機能が落ちてくる。失神・喀血→労作時息切れ・倦怠感→浮腫→安静時息切れのように病態が進行していき、適切な薬物治療を行わなければ悪性腫瘍と同じような生存率となる(症状が出てから亡くなるまでの期間が短い)。
肺高血圧症の方の血管は胸部CT等で確認すると健康な人の血管に比べて少なく見える。これは血管平滑筋の肥大or血管内皮の増殖と機能異常→肺血管攣縮or血栓形成→内膜が増殖(肺血管のリモデリング)によるものである。
肺高血圧症は、その原因と病変の場所によって、肺の毛細血管に異常が起きている肺動脈性肺高血圧症(PAH)、肺の毛細血管の大きなところに血栓が詰まる慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)、呼吸器疾患で肺自体がやられるケース、弁膜症等の左心疾患に伴い肺静脈圧の増加によるもの、その他機序不明なものに分類される。
最も多いPAHの治療では、プロスタサイクリンとNOを高めるか、血管を収縮させるエンドセリンを抑制するかしか今のところ手立てはない。
肺動脈性 | 慢性血栓塞栓性 | |
---|---|---|
原因 | 肺小動脈のリモデリング、肺動脈攣縮、微小血栓 | 器質化血栓による肺動脈狭窄や閉塞 |
病変の場所 | 直径500μm以下の末梢肺動脈 | 亜区域枝より中枢側 |
治療薬 | PGI2製剤 エンドセリン受容体拮抗薬 PDE5阻害薬 |
可用性グアニレートシクラーゼ刺激薬 |
肺動脈性肺高血圧症
原因は特発性、遺伝性、薬物毒物誘発性、そして膠原病・HIV、先天性短絡性心疾患等に伴うものなど様々であり、病態として気管支喘息のような肺小動脈内皮細胞がリモデリングにより増殖し、動脈壁肥大のため動脈内腔が狭くなる、これに肺血管攣縮や微小血栓等が複合して存在している。
- ベラプロスト(ケアロード、ドルナー、プロサイリン)・・・PGI2誘導体製剤で、PGI受容体を刺激し、cAMPを上昇させて血管拡張を示す。
- エポプロステノール(フローラン)・・・静注PGI2製剤。静注できるのはPGI2製剤のみ。
- ボセンタン水和物(トラクリア)・・・エンドセリン受容体拮抗薬。エンドセリン受容体に結合してエンドセリン作用を阻害して血管拡張作用を示す。
- アンブリセンタン(ヴォリブリス)・・・エンドセリン受容体拮抗薬。トラクリアよりも肝機能障害が少なく、CYP系大社薬剤との相互作用が少ないが浮腫等を生じることがある。
- シルデナフィル(レバチオ20mg)・・・PDE5阻害作用によりcGMP濃度を上昇させて血管拡張作用を示す。バイアグラ(25mg、50mg)と同一成分である。
- タダラフィル(アドシルカ20mg)・・・PDE5阻害薬。シアリスやザルティアと同一性分である。
エンドセリン受容体拮抗薬は希少疾病用医薬品であり、ボセンタン水和物、ヴォリブリス共に、1錠が5000円近くする。(難病医療の指定疾患である)
慢性血栓塞栓性肺高血圧症
器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞し、肺血管抵抗が上昇する疾患であり、6ヶ月以上抗凝固薬等による治療を行っても肺血流分布や血行動態が変化しない病態である。
内服薬で保険適応になっているのは可溶性グアニレートシクラーゼ刺激薬のみで、もっぱら外科的手術(肺動脈血栓内膜摘除術)がなされる。手術不適とされ手術リスクの高い慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対して肺動脈バルーン拡張術が行われるようになった。
- リオシグアト(アデムパス)・・・可溶性グアニレートシクラーゼ刺激薬。sGCを直接刺激しcGMP濃度を上昇させることでNO非依存性に血管拡張作用を示す。PDE5阻害薬との併用は過度の血圧低下の恐れがあり禁忌になっている。
(参考・引用:PharmaTribune2014.9)
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