脳卒中(脳梗塞と脳出血)とは
脳梗塞の種類
脳梗塞はその名の通り、脳の血管が詰まって半身不随になったりする疾患であるが、血管のつまり方やつまる場所、原因によっていくつかに分類されている。
- 心原性脳塞栓症
- アテローム血栓症
- ラクナ梗塞
- その他(脳動脈解離、もやもや病、抗リン脂質抗体症候群、Trousseau症候群等)
血栓と塞栓、抗血小板薬と抗凝固薬の違いを理解しておくことでこのへんの理解が容易になる。
心原性脳塞栓症は心臓で出来た血栓が、脳に移動して脳の血管に蓋(塞栓)をして梗塞を起こす疾患で、血液の流れがゆるやかな左房内や末梢静脈ではフィブリンを主とした血栓ができやすく、抗血小板薬ではフィブリン塊を溶かすことができないため、抗凝固薬が使われる。病変が血管の一部分で起こるラクナやアテロームとは違い、心原性脳塞栓症では血栓で蓋をされた血管から先全ての細動脈へ血液が行かなくなるため、最も予後が悪い。
アテローム血栓症(いわゆるコレステロールとかが血管壁にたまることで起こる)は脳の比較的太い動脈が血栓形成により梗塞を起こす疾患。動脈のような血流が早い血管では、ずり応力が働きやすく、ずり応力惹起血小板凝集(血小板による血栓で抗血小板薬の適応)が引き起こされる。
血小板凝集は、動脈血流とそれがつくり出す高いずり応力下によって形成され、フォンウィルブランド因子(vWF)や ADP などが重要な働きをする。高ずり応力による vWF と GPⅠb との相互作用により GPⅡb/Ⅲa は活性化され、活性型 GPⅡb/Ⅲa はフィブリノゲン、vWF などの血漿蛋白質と高い結合能を発揮する。
また、細胞内にある ADP などの血小板凝集惹起物質が血小板外に放出され、ADP が ADP 受容体(P2Y12)に作用することによって、さらに多くの血小板を活性化する。これらの作用により血小板が凝集し、血小板血栓が形成される。(参考:プラビックスIFより)
内頚動脈はアテロームができやすい。頸動脈が細い人は数%で、これらの人においては薬物治療よりは頸動脈内非剥離術(オペで血栓取り除く手術)が使用される。太い人においては薬物治療の対象となる。アテロームと心原性は同じ病気で再発するので、交互に起こることはほぼない。危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など。発症当初は軽度の麻痺のみであったとしても、徐々に増悪し意識障害、失語症などの皮質症状を伴い重症化する症例もある。
予兆として24時間以内に症状が消失するTIA(一過性脳虚血発作)が起こることも少なくなく、片側麻痺やしびれ、ろれつが回らない、片目が見えなくなるといった症状に注意する。
ラクナ梗塞は大脳深部に血液を供給している脳の細い血管詰まることで起きる梗塞。細い血管は弱いので出血をおこしやすい。高血圧がもっとも重要な危険因子。運動麻痺や感覚障害のみが主体で予後は良好である。
抗リン脂質抗体症候群は自己免疫疾患の一種で、血液中に抗リン脂質抗体ができ、これが血液を凝固させて血栓ができやすくなる疾患。
3つの梗塞を分類するのに、血管の太さで分ける方法がある。
- 太い血管:弾性動脈・・・・大動脈
- 普通の血管:筋性動脈・・・・冠血管、内頚動脈、腎動脈→アテローム血栓の対象
- 細い血管:細動脈・・・・腎臓、網膜、脳→ラクナの対象
脳梗塞の治療
発症後4.5時間以内の症例では脳梗塞の種類にかかわらず、rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法の適応を検討。アルテプラーゼはフィブリン親和性が高く、血栓に特異的に吸着して決戦場でプラスミノーゲンをプラスミンに変換させ、生成したプラスミンがフィブリンを分解し血栓を溶解する。
アテローム血栓性脳梗塞では、急性期で抗凝固療法(ヘパリン静脈内投与、トロンビン阻害薬静脈内投与)もしくは抗血小板療法(TXA2合成酵素阻害薬静脈内投与、アスピリン高用量内服)やそれらの併用がなされる。再発予防ではアスピリン75~150mg/、クロピドグレル75mg/日、シロスタゾール200mg/日(以上グレードA)、チクロピジン200mg/日(以上グレードB)が使用される。クロピドグレルはアスピリンを上回る血管イベント抑制作用を示す。
ラクナ梗塞では、急性期で抗血小板療法(TXA2合成酵素阻害薬静脈内投与、アスピリン高用量内服)がなされる。再発予防においてはアテローム血栓症と同じく非心原性脳梗塞の再発予防治療を行う。
心原性脳塞栓症では、上記のCHADS2スコアにあるように弁膜症性心房細動ではワーファリンの一択、非弁膜症性心房細動では年齢や体重、腎機能等様々な患者の状態により薬剤を選択していく。
脳梗塞ガイドライン2015を転記すれば、
- 非心原性脳梗塞の再発予防には、抗凝固薬よりも抗血小板薬の投与を行うよう強く勧められる。
- 現段階で非心原性脳梗塞の再発予防上、最も有効な抗血小板療法(本邦で使用可能なもの)はシロスタゾール200mg/日、クロピドグレル75mg/日、アスピリン75~150mg/日(以上グレードA)、チクロピジン200mg/日(グレードB)である。
- ラクナ梗塞の再発予防にも抗血小板薬の使用が勧められる(グレードB)。ただし十分な血圧のコントロールを行う必要がある。
- アスピリン(50mg/日)とジピリダモール(400mg/日)の併用は、我が国では行わないよう勧められる(グレードD)
- 1年間以上の抗血小板薬2剤の併用は、抗血小板薬単剤と比較して、有意な脳梗塞再発抑制効果は実証されておらず、むしろ出血性合併症を増加させるために、行わないよう勧められる(グレードD)。
- 抗血小板薬を使用中の頭蓋内出血を予防するために、収縮期血圧は130mmHg未満に管理することが根拠は不十分であるが、勧められる(グレードC1)。ただし、両側頸動脈高度狭窄例や主幹動脈閉塞例では降圧は慎重に行う。
- 出血時の対処が容易な処置・小手術(抜歯、白内障手術など)の施行時は、抗血小板薬の内服続行が勧められる。出血高危険度の消化管内視鏡治療の場合は、血栓塞栓症の発症リスクが高い症例では、アスピリンまたはシロスタゾールへの置換を考慮する(グレードC1)。
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