基剤の種類と特徴

基剤の種類

基剤 性状 名称 軟膏 眼軟膏 坐薬 特徴






白色ワセリン × 分岐鎖をもつパラフィン
黄色ワセリン
流動パラフィン 飽和炭化水素から成る
プラスチベース 分子量21000のポリエチレン
シリコン ×  
植物油 オリーブ油など
豚脂  
サラシミツロウ ミツロウを漂白したもの
ミツロウ  
単軟膏 ミツロウ+植物油
カカオ脂 × 結晶多形のため30~34℃に保つ
ウイテプゾール 脂肪に乳化剤を加えたもの






親水ワセリン × w/o型で水相を欠く。ラノリンは吸水性大
精製ラノリン
吸水クリーム w/o型で水相がある。
適応:乾燥型。湿潤型は×。
加水ラノリン
親水クリーム o/w型。水洗いが容易
適応:乾燥型。湿潤型は×


マクロゴール 水洗い容易。湿潤型に○
分泌物に溶解し、薬物を放出
グリセロゼラチン ×  
グリセリン  

油脂性基剤

ワセリンは不純物の量により名称が異なる。不純物量は、白色ワセリン>プロペト>サンホワイトの順。よって刺激を受けやすい部位にはプロペトのほうがあっている。

乳剤性基剤

乳剤性基剤はo/w、w/o問わず、吸水性があるため、湿潤面には用いない。湿潤面には水溶性基剤を用いる。

o/w型:親水クリーム、パスタロンクリーム、ヒルドイドクリーム、オルセノン軟膏、ゲーベンクリーム等が該当。水分含有量が多く、乾燥面に水分を与える(湿潤面には使わない)。外相の水分が蒸発し冷却効果を与える。水で容易に洗い流せる。マヨネーズもo/w型。

w/o型:吸水クリーム、パスタロンソフト軟膏、ヒルドイドソフト軟膏、リフラップ軟膏、ソルコセリル軟膏等が該当。水分の含有量は少なく、水で容易に洗い流されないため、皮膚の保護目的も兼ねる。

ゲルとゾル

ゲルは、ゾル(液体を分散媒とするコロイド)がゼリー状に固化したもので、患部に塗布すると体温で半液体状(ゾル)になり、周囲に広がる。

  • ヒドロゲル:無脂肪性で洗い流しやすく、含有水分が蒸発する際に気化熱で皮膚を冷やす
  • リオゲル:FAPG(fatty alcoholpropylene glycol)、主に高級アルコールとプロピレングリコールで構成され、水分を含まない。外観はクリームに似ているが吸水性があり、皮膚を乾燥させる傾向がある。

基剤の特徴

基剤について理解するには、界面活性作用の理解が必要となります。

例えば、↓ででてくるヒルドイドソフト(w/o)には、ヘパリン類似物質のほかに、グリセリン、軽質流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、グリセリン脂肪酸エステルetc...といった添加物が入っています。

ヘパリン類似物質は水に溶けるので水溶性、グリセリンは水溶性の基剤、ワセリンとミツロウは油脂性の基剤というように、水と油が混ざっている製剤です。ドレッシングを思い浮かべればわかるとおり、水と油というのは通常では混ざり合うことはありません。

それではなぜ、ヒルドイドソフトは水と油に分離していないのか?それはグリセリン脂肪酸エステルという非イオン性の界面活性剤が水溶性の基剤と油脂性の基剤を混ぜているからです。このように、界面活性剤には水と油を混ぜ合わせる作用があります。

このような液体同士の混合は界面活性剤の幾つかの作用のうちの一つ、乳化作用と呼ばれ、乳化の目的だけに使用する添加物を乳化剤といい、洗剤等の界面活性剤とは区別される。(洗剤は固体の汚れを液体に分散させたり、乳化以外の作用も担う)

ヒルドイドに倍量のワセリンを加えると、グリセリン脂肪酸エステルの量が足りなくなり分離を起こします。これがステロイドの軟膏にヒルドイドを混ぜて処方できない理由です。

  • 溶解補助剤・・・難溶性医薬品との間にコンプレックス(複合体)を形成し、溶解度を増加する
  • 懸濁化剤・・・難溶性の固体医薬品を液中に均等に分散させたり、粒子の沈降凝集を防止する
  • 粘稠剤・・・液の粘度をます
  • 乳化剤・・・水溶性と脂溶性の液体を乳化させる(エマルションを形成)
  • 界面活性剤・・・2液相の界面に集まり、界面張力を低下させる目的で使用
  • 安定化剤・・・主薬の化学分解、物理的変化を抑制する
  • 保存剤・・・微生物による製剤の汚染・分解の抑制
  • 緩衝剤・・・安定化や生理的刺激の軽減のためにpHを一定に保つ

混合についての注意点は、それ以外にも、

pHの変化(尿素との混合)により、ステロイド(キンダベート、デルモベート、ベトネベート、リンデロンV、ボアラ、ロコイド)の構造が変化して効果が数分の一に下がってしまう場合や、液滴分散型(あらかじめ基剤中に均等分散させた)の薬剤(アルメタ、フルメタ、ボンアルファ、ドボネックス、プロトピック)は混合により不安定化してしまうといった場合もある。

基剤による希釈は1/16まではその効果に差がなく、1/64で初めて効果が半減するという(皮膚外用剤の希釈)。

主薬と基剤による吸収率の違い

脂溶性と水溶性

皮膚が雨水を弾くことを考えれば分かる通り、人間の皮膚は脂質二重層ですので、水溶性のものよりも脂溶性のもののほうが通りやすい性質があります。そのため、主薬と基剤の水溶性と脂溶性の性質によって角質への吸収率は大幅に変わります。

主薬 基剤 基剤と皮膚との親和性による経皮吸収性 基剤と薬物との親和性による経皮吸収性
水溶性薬物 油脂性基剤 ↑(高) ↑(低)
水溶性基剤 ↓(低) ↓(高)
脂溶性薬物 油脂性基剤 ↑(高) ↓(高)
水溶性基剤 ↓(低) ↑(低)

上矢印が吸収率が高い組み合わせ。()内は親和性。

主薬が脂溶性のステロイド剤を同じく脂溶性の軟膏剤に溶かした場合、基剤の脂溶性が高いので吸収率が大きいが、主薬の脂溶性も高いので主薬が基剤に溶けやすく(とどまりやすく)、主薬の皮膚への吸収率は思ったよりも高くなりません(相殺=バランスで決まる)。基剤が蒸発しにくいため皮膚保護、治癒促進作用があり、主薬が一気に吸収されないので低刺激で、荒れて吸収率が高まった皮膚に良いとされている。

主薬が水溶性の尿素を脂溶性の軟膏剤に溶かした場合、基剤の脂溶性が高く吸収率が大きい上に、主薬の水溶性が高いため、主薬の皮膚への吸収率はかなり高くなります。

ただしこのパターンは正常皮膚か角質が除去されていない皮膚に対する吸収率であり、角質が除去されて脂質二重層が破壊されてしまうと、水溶性基剤で脂溶性薬物の組み合わせがもっとも吸収率の高い組み合わせになります。

これらの特徴を踏まえれば、角質が除去率が高いやけどや重度のアトピー等(びらん、亀裂を伴うような)には軟膏剤がよく、表皮の剥離がほとんどない・ある程度重い・乾燥を伴う等の病変にはクリーム剤が、症状がそんなに重くなく乾燥もないような病変にローションタイプがいいように思える。

これは、クリーム剤がもっとも経皮吸収率が高く、皮膚の保護・保湿効果がある程度あるためである。ローション剤は基剤が蒸発しやすいため角質が残っている皮膚においては吸収率が低いため。

分子量

また、分子量が500以下のものでなければ正常の皮膚からの吸収率が下がります。プロトピック(分子量822)は正常な皮膚からは吸収されず、表皮の剥離がある皮膚からのみ吸収されるように作られています。シクロスポリン(分子量1202)に至ってはアトピー皮膚でも透過しません。

薬物濃度

基剤の中の薬物濃度が高いほど、吸収される薬物量が高くなります。

(参考:剤形による皮膚透過性の違い主薬の経皮吸収性に対する基剤や剤形の影響、皮膚外用薬について 大谷道輝著書)


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記事No424 題名:Re:とおりすがり様 投稿者:管理人tera 投稿日:2017-03-01 21:38:48

ご指摘ありがとうございます。
おかげさまで修正することができました。
今後とも宜しくお願い致します。


記事No423 題名:表について 投稿者:とおりすがり 投稿日:2017-02-28 20:00:35

表「基剤の種類」の中に親水ワセリンが2個ありますが、どちらかが親水クリームでしょうか?


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