漢方の考え方

漢方の考え方の特徴は、病名を見ないということで、同じ風邪であっても、汗をかいているのであれば桂皮湯、汗がなければ葛根湯のように出される薬は異なるものになります。

漢方における診断とは病名ではなく”証”を決定することであり、その診断方法として四診が用いられます。

1) 望診・・・視覚による診察(体格、姿勢、舌)
2) 聞診・・・聴覚、嗅覚による診察(咳、口臭)
3) 問診・・・患者の訴えを聞いて診察(悪寒、熱、汗)
4) 切診・・・「接」と同意語で、触覚による診察(脈診、腹診)

この四診を用いて導き出される結論が証であり、証は八綱(陰陽裏表虚実寒熱)、気血水、六病位で構成されています。 その証と方意(薬方の証、方剤)を結びつけることで治療していきます。

気血水

東洋医学では病気の原因は、気、血、水(津液)という3つの影響によって引き起こされると考えられています。

気とは精神、神経を意味し、血はその名の通り血液を、水(津液)は血液以外の液体(リンパ液など)を意味しています。

病的な状態として、気虚(気の量の不足)、気鬱(気の循環の停滞)、血虚(血の量の不足)、瘀血(血の流通の停滞)、水滞(水の偏在)がある。

飲食物(水分と穀物=水穀)は胃で消化された後、小腸で清(水穀の精微=栄養素の塊)濁(糟粕=不要物)に分けられ、濁は大腸へ、水穀の精微は小腸で吸収され脾に運ばれ、気や津液の生成に使われる。

気の元は、後天の精(脾・肺:飲食物と呼吸により取り込まれた空気)と、元から備わっている先天の精(腎)である。気を高めるためには飲食物と呼吸(酸素)が大切であるということ。気の容量が十分であったとしても気のめぐりを良くする肝や心の働きが悪ければ気の作用が十分に発揮されないのは言うまでもない。

気は四気に分類できる。

  • 原気は元気と同義であり、丹田で生成され全身に分布される。原気の元は腎に貯蔵されている先天の精(生を受けた時点で両親から受け継いだ気)である。先天の精は後天の精(飲食物由来)を使って補充することもできる。生命活動の源であり、成長・生殖を基本として他の3つの気の作用を全て担う。
  • 宗気は胸中で空気中の清気(酸素)と食べ物由来の水穀の精微が結びついて作られる。胸中から肺や心へと移動し、その推動作用により、気血の循環を促して、呼吸や心臓の動きをサポートする。
  • 営気は脾で食べ物由来の水穀の精微のうち清い部分(非活発)から作られる。営気は気化作用を持ち、営気+津液から血を生成し、全身栄養、潤いを与える。営気が無いと血が作られない。営気は血とともに脈中を流れ、血を全身に運ぶ作用を担う。血は心へ送られ、経脈を通って肝にて貯蔵される。
  • 衛気は脾で食べ物由来の水穀の精微のうち濁の部分(活発)、もしくは腎で後天の精から作られる。活発な気のため脈外を流れ、体表の保護(防御作用)、発汗調節(固摂作用)、体温調節(温煦作用)、皮膚のハリツヤに関わる。

気の5つの作用は以下

  1. 推動作用・・・血や津液を押し動かす。
  2. 温煦作用・・・体を温める作用
  3. 防御作用・・・体表をバリアで覆う作用(衛気)、邪気を追い出す作用
  4. 固摂作用・・・あるべき場所に固定する作用。血液は血管内に、発汗を抑制する等
  5. 気化作用・・・気によって何かが何かに変化すること

以下は気の状態と起こる変化

  • 気虚・・・気が不足、肌荒れ(表虚)、たるみ、疲労感、息切れ(肺気虚)、食欲不振(脾気虚)、ため息(心気虚)、冷え、下痢、頻尿。適度な運動で酸素を取り入れる。病気への抵抗力が低下、深刻化すると冷え性、この状態を陽虚という。
  • 気滞・・・気の滞りが悪い=一杯一杯な状態、イライラ、吹き出物、ゲップ、おなら、便秘、不安、うつ、ストレス。精神的な症状がより強いケースを肝気鬱血といい、憂鬱、イライラなど。
  • 気逆・・・気が本来(上から下)とは逆の方向に流れる場合。嘔吐、咳、冷えのぼせ、頭痛など。気逆には桂枝がよいとされる。竜骨もよい。
  • 気陥(きかん)・・・気の上昇が不足して、下降が激しい状態
  • 補気・・・気虚を改善する。心肺、胃腸機能を高めて気を補う[人参(弱った胃腸)、黄耆(異常な発汗抑制)=参耆剤、白朮、甘草。と補脾薬(消化器の状態を改善)である山薬、茯苓、大棗、蓮肉、膠飴、粳米、ヨクイニンなど]⇒主な補気剤は補中益気湯、六君子湯、啓脾湯、黄耆建中湯など。四君子湯がベース
  • 理気・・・気滞(気の回り)を改善する。理気剤として→柴胡、薄荷、香附子、紫蘇葉、厚朴(ホオノキの皮)、半夏、陳皮、枳実等香りの高いもの、気虚には使えない、茯苓も?肝気鬱血には特に柴胡や芍薬、具体的には四逆散、香蘇散、半夏厚朴湯、柴胡加竜骨牡蛎湯など。

気虚のうち表虚・・・皮膚・粘膜等の表面が虚の状態。身体の表面が虚の状態になっていることで、衛気(エキ)という血管外を流れる皮膚免疫に関与する気が不足をして、汗が出る。体表を覆うエネルギーで敵からの第一防衛。

慢性的な倦怠感は全身の気が不足した気虚の代表的な症状。気は毎日の食事で作り出されるので脾虚の場合は脾を補う参耆剤が使用され、血虚でも全身に気が回らないので当帰や芍薬等の補血剤を使用する。代表的な方剤は補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯。

血は、脾で気化作用によって(営気+津液)から生成するものと、骨髄を司る腎精(先天の精+後天の精)から生成するものがある。十分に血があれば、気化作用により気となり腎に蓄えられる。

血と津液は気の推動作用で動き、気の固摂作用で血管内等のあるべき場所に維持される。すなわち、気虚であれば、血虚になる事が多い。

  • 血虚・・・血の不足、小じわ、乾燥肌。色白、めまい、しびれ、こむら返り、生理。肌のかさつきは水でなく、血として分類し、血(栄養)不足は乾燥や、しびれに。不眠症では眠るには血、目覚めるは気と言われる。
  • お血・・・血の巡り、血行が悪い。血の機能が発揮できなくなる。吹き出物、顔色、唇の色、頭痛、肩こり。下部の圧痛
  • 補血・・・地黄、芍薬、当帰は肝の血を補い、阿膠、竜眼肉、酸棗仁は心の血を補う。地黄は胃腸障害、当帰芍薬散は地黄が抜いてあるので四物湯よりよい。 ⇒四物湯、キュウ帰キョウガイ湯、当帰飲子、七物降下湯、当帰芍薬散、加味逍遥散、温経湯、キュウ帰調血飲など。
  • 活血剤(くお血剤)・・・当帰、川キュウ、桃仁、牡丹皮、紅花、延胡索、大黄。妊娠中は分娩促進のため禁忌。桂枝茯苓丸、桃核承気湯、キュウ帰調血飲。

水(津液)

身体内における血以外の水分のこと。津液は脾において、水穀の精微が気化されて生成される。津液は血以外の体液で、脾の運化水液作用・昇清作用、で肺へ送られ、肺の宣発粛降作用・通調水道作用で三焦(津液専用経路)を通路として、全身に運ばれ、腎の気化作用によって清と濁に分けられて、清は肺へ戻され再利用、濁は膀胱から尿となって排出される。

  • 陰虚(津液不足)・・・水の不足による渇きとほてり、肌荒れ、渇き、痒み、のぼせ、耳鳴り
  • 湿痰(津液が過剰になり、津液めぐりが悪い水湿=痰飲)・・・痰飲のうち、ネバネバしたものを痰、サラサラしたものを飲という。水の巡り、むくみ、肥満、水膨れ、吐き気、痰が多い、吹き出物。水分の取りすぎや気の機能不全など。利水→茯苓、ソウジュツ、白朮、沢瀉、猪苓、防已、モクツウ、ヨクイニン。五苓散、苓桂朮甘湯、防己黄耆湯、胃苓湯など。
  • 湿熱・・・精が過剰になり、湿と熱が停滞。水湿と熱邪が合体。清熱剤として、オウゴン、黄連、山梔子、竜胆、大黄、石膏。竜胆瀉肝湯、五淋散、消風散、越婢加朮湯、因五苓散 水の変調は水滞、水毒という。体液の偏在が起こった状態を痰飲という。
  • 化痰・・・痰を解消すること
  • 滋陰・・・滋陰剤(じいんざい)とは主に身体に潤いを与えるはたらきを持つ津液(しんえき)を補充する漢方薬を指します。麦門冬、天門冬、地黄、人参、五味子など。麦門冬湯、滋陰降火湯等。

五臓(陰)六腑(陽)

東洋医学では西洋医学の臓器の概念とは異なり、主に働きを示すと考える。

五臓は、肝、心、脾、肺、腎からなる。臓器の内部に組織などが充実しており、「実質性臓器」と呼ばれる。

  • 肝:気(自律神経)のコントロールと血の貯蔵。肝気鬱血(肝の気血の廻りが悪いと肝熱が発生し、のぼせめまい)。目と爪に反映→イライラ、筋肉痙攣、目の以上
  • 心:気と血の循環(心臓の心:運搬)、意識水準・覚醒・睡眠リズム調節(精神の心)→不眠、動悸の原因
  • 脾:消化吸収の管理、気血水の生成→食事と睡眠が気血を作る。四君子湯、六君子湯、補中益気湯といった建中湯類、参耆剤で脾を補える。胃腸虚弱、食欲異常
  • 肺:呼吸・皮膚機能、水の管理。咳、呼吸困難と皮膚の異常。柴胡桂枝湯、柴胡加黄耆湯といった黄耆剤。
  • 腎:成長、発育、生殖中枢。歯や骨、髪も→白髪・脱毛・老化現象。水分代謝調節→出すだけでなく保持も→頻尿治療。精が収められている(腎精)。精の異常は腎虚⇒発育障害や老化。腎虚を改善する=先天の気を補う漢方として、地黄(胃腸障害注意)、山薬、クコシ、鹿茸。補腎剤として八味地黄丸、牛車腎気丸など。補腎剤はアンチエイジング薬みたいな。精の減少は老化と同義。

六腑、胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦からなる。臓器の内部が空洞になっており、「中空性臓器」と呼ばれる。

  • 胆:胆汁を貯蔵し消化にかかわる
  • 小腸:胃から送られてきた消化物の中で必要なものを吸収し、不要なものを大腸や膀胱へ送る。
  • 胃:飲食物を消化する
  • 大腸:小腸から送られてきた不要なものを便として排泄する
  • 膀胱:小腸から送られてきた不要なものを尿として排泄する
  • 三焦:津液コントロール

肝と胆、腎と膀胱、心と小腸、脾と胃、肺と大腸が陰陽の関係。

年齢による五臓の変化

  • 50歳・・・肝気が衰え始め、胆汁が減少、目もぼんやり
  • 60歳・・・心気が衰え始め、悲しみ、血気はすでに衰える
  • 70歳・・・脾=消化器が虚弱になり、皮膚が乾燥
  • 80歳・・肺気が衰弱、言葉をしばしば間違える
  • 90歳・・・腎気が枯渇、血気もなくなる
  • 100歳・・五臓の気がなくなる

八綱

八綱は気血水のような病気の原因ではなく、病気そのものの状態を表します。方意と証は対応しているため、このような診断方法を方証相対と言います。

八綱の特定の仕方は以下の通りです。

陰陽に分ける

陽とは熱がある状態(熱性)のこと、陰とは冷たい状態(寒性)のことを言う。よって、陽の状態であれば熱をとってあげれば良く、逆に陰の状態であれば暖めてあげればよい。なお、体温計で計る熱ではなく自分でどう感じるかである。

気(無形)は陽(陽気ともいう)であり、血と津液(有形)は陰(陰液ともいう)である。陽と陰のバランスが崩れると病気になると言われる。

陽が基準値以下で、陰が基準値の状態を陽虚という。陽虚の場合、補気剤で陽を高め、熱産生を高めて、陰陽のバランスをとる。

陽が基準値で、陰が基準値以下の状態を陰虚という。陰虚の場合、潤いの不足により虚熱を伴い、空咳やホットフラッシュ、不眠、発汗、尿が濃くなる、便秘等が起こるが、ここで清熱剤を使用して陽を抑えると両虚となってしまうため、補血や補気で陰を補う必要がある。

逆に、陽が基準値以上で、陰が基準値の状態を実熱症という。この場合は陽を抑える(熱を冷ます)清熱剤を使う。

陽が基準値で、陰が基準値以上の状態を実寒症という。この場合は陰を抑える(水を取り除く)利水剤を使う。

陽と陰ともに基準値以下の状態は両虚証であり、気血両補の十全大補湯や人参養栄湯の適応となる。

虚実に分ける

実は気力・体力がある状態のこと、虚は気力・体力がない状態のことを言う。熱があっても体力があれば、陽実証と診断される。陽明病と少陰病を見分けるときに効果的。虚実は1つの病位の中にも存在し、例えば、大柴胡湯は実、小柴胡湯は虚よりである。

裏表に分ける

表とは体の表面で見えるところを言い、裏とは体表面のうち首から胸、腹にかけてと、口から肛門までの内蔵(消化器官)を言う。表から裏へと向かう段階の経過点をとらえて半表半裏としており、部位としては胸部から胸脇部(横隔膜付近)を指します。寒くて体力はあるが下痢をしている状態(夏など)は陰実裏証(太陰病)と診断される

寒熱に分ける

寒熱は陰陽が決定すれば自動的に決定することが多いため、あまり重要でないように思える。どうも表を寒熱に分けるというような使い方をするみたい。更年期の症状で見られる冷えとのぼせはは上熱下寒とする。

八綱の内容から六病位に当てはめる

病気の進行:太陽病→少陽病→陽明病→太陰病→少陰病→厥陰病

病位太陽病少陽病陽明病太陰病少陰病厥陰病
陰陽
虚実虚実虚実虚実虚実錯雑
裏表半表半裏
寒熱
悪寒発熱往来寒熱潮熱   
治法発汗和解瀉下温散温散不定
日数初~3日5,6日6,7日   

往来寒熱=寒さと暑さが繰り返す 潮熱=体中にみちわたった熱

陽病は熱産生が盛んな期、陰病は熱産生が低下している期。

太陽病は発熱と悪寒(熱感ではなく)があり、内部に熱がこもっていて表はまだ冷えている状態。表を温めて発汗させて治す。

少陽病は病邪が半表半裏(胸の部分)にあり、往来寒熱を呈する。和解する(炎症を抑える=小柴胡湯)ことで治療する。

陽明病は病邪が裏まで入り、消化管でも熱の産生が亢進し、脱水が起こり便秘等が起こる。瀉下する(下剤)し炎症を抑えることで治療する大黄を含む承気湯類が使用される。

陰病は全般的に温める漢方を用い、解熱剤等の清熱剤は用いない。

整理(自分分析)

陰陽に分ける前に、気血水を考える。

気については、肌荒れやだるさ、冷えがある時点で気虚。ややイライラもあるので気滞もあり。血と水については、肌荒れくらいが該当。

クラシエのからだかがみの診断では、気滞タイプの診断。陰虚も高いけど、のぼせは便秘はないので自覚症状なし。自己診断では気虚・気滞とそれに伴う血虚。

これを陰陽に当てはめると、両虚証かもしくは、陽虚かと考える。また、夏でもお腹が冷えるので裏寒でもある。

というわけで、補気・理気、補血、温裏剤からなる方剤が適しているのではと考えている。十全大補湯、当帰飲子、黄耆建中湯あたりになるのかな。


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