甲状腺疾患(バセドウ病と橋本病)とは
甲状腺ホルモンにはチロキシン(T4)とトリヨードチロニン(T3)があり、前者(T4)の方が量的には多いですが、生理活性は後者(T3)のほうが強いです。(3とか4はヨウ素の数です)
T3は半減期が非常に短いため、薬として服用するものはそのプロホルモンであるT4です。T4それ自体は活性が弱すぎてほぼ作用を示さないが、肝臓やその他の組織にてT3へ変換されて生理活性を示す。
このT4からT3への変換を阻害するのがプロピルチオウラシルです。
甲状腺ホルモンの生理作用は以下のようなものになります。(他に甲状腺から分泌される物質にカルシトニンという骨吸収を抑制して血中Caを下げる物質があります。)
- 成長、発育促進作用
- 基礎代謝亢進作用(体温上昇)
- グリコーゲン分解、糖新生を促進し、血糖を上昇させる
- タンパク異化促進
- コレステロールから胆汁酸への異化を促進することで血中コレステロールを低下させる。
- 心筋のβ受容体を増加させる(T4のみ)
甲状腺ホルモンの合成
甲状腺はのどぼとけと頸椎の間にある蝶々様の臓器で、通常触診ではわからないため、わかるようなら腫れている等の異常があるとされる。
甲状腺ホルモンは、食物中のヨウ素(=ヨードと同義)を基にして作られます。
甲状腺ホルモンの合成制御は視床下部から分泌されるTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)→下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)により行われています。TSHは甲状腺内の複数の濾胞を囲む濾胞上皮細胞のTSH受容体を刺激して甲状腺ホルモンの産生を行う。
ヨウ素がヨードイオンとなり腸管から吸収されると、腎臓によって甲状腺へと戻されます。
甲状腺に来たヨウ素イオンは、甲状腺ペルキシダーゼの作用でチログロブリンという濾胞上皮細胞が合成するタンパク質上のチロシン残基をヨウ素化してヨードチロシンを作ります。生成したヨードチロシンが縮合して甲状腺ホルモンであるT3やT4が合成される。
T3やT4は再度チログロブリンと結合して濾胞上皮細胞内に取り込まれ、濾胞細胞内のリソソームで加水分解されて、T3、T4が血中へ放出される。血中のT3、T4は運搬タンパク質(大部分がTBG、アルブミン等)に結合して運搬される。
甲状腺疾患
甲状腺疾患は甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症に大きく分けられます。
甲状腺機能亢進症
代表はバセドウ病で、バセドウ病は自己免疫疾患のひとつであり、抗TSHレセプター抗体(TRAb:TSH受容体に対する刺激性の自己抗体)がTSH受容体を持続的に刺激するため、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう疾患。
遺伝的要因が背景にあることが多く、ストレス等の環境要因に惹起されて突然発症するが、きちんとした治療を行うことで何年かで治る病気。日本人は欧米人に比べて海藻類からのヨウ素摂取量が高いので発症頻度が高いと言われる。
特徴(臨床所見)は甲状腺肥大、頻脈、眼球突出、手指振戦、体重減少(まれにホルモンによる食欲亢進が勝って増加の場合もある)、発汗増加。
甲状腺ホルモンが過剰に合成・分泌されると十分な食事量を摂取していてもエネルギー消費量が勝って、体重が減少する。また、甲状腺ホルモンは腸管を収縮させるため、軟便や下痢を認める。皮膚は常に温かく、精神的には不安定になって落ち着きがなくなります。
眼瞼後退、眼球突出、眼瞼腫脹のなかでも、よく見られる眼瞼後退は、交感神経の過緊張によって瞼を開閉するミュラー筋が異常収縮するため大きく見開いた目となる。 眼球突出が見られるのは、パセドウ病の20~40%にすぎず、全員が起こるわけではない。
亜急性甲状腺炎は、一過性に甲状腺が炎症を起こすお陰で、濾胞が破壊されて甲状腺ホルモン量が増加し亢進症のような症状を呈しますが、甲状腺ホルモンを分泌し尽くした後は逆に甲状腺機能低下症の病変を引き起こす疾患です。その後は正常に戻り予後は良好です。
| バセドウ病 | 無痛性甲状腺炎 | 亜急性甲状腺炎 | |
|---|---|---|---|
| 病態 | 甲状腺機能亢進症 | 破壊性甲状腺炎 | |
| 甲状腺機能 | 高度の増加 | 軽度の増加 | 軽度~中等度増加 |
| 甲状腺腫 | びまん性(軽度~顕著) | びまん性(原疾患による) | 有痛性、時に結節様 |
| 甲状腺自己抗体 | TRAb+ | TgAb+、TPOAb+、TRAb- | 陰性 |
| 放射性ヨウ素摂取率 | 高値 | 低値 | 低値 |
| 超音波所見 | びまん性腫大、血流豊富 | びまん性腫大、血流乏しい | 疼痛部に一致した低エコー域 |
| 治療 | 抗甲状腺薬、手術、放射性ヨウ素内服 | 積極的治療不要(頻脈等への対症療法) | ステロイド/NSAIDs |
甲状腺機能低下症
代表は橋本病で、チオグロブリンに対する抗体が産生され、甲状腺が破壊される疾患。
突然発症し高齢者と女性に多い。完治は難しく血液検査で数値を見ながら範囲内に薬で範囲内に収める。
特徴は貧血、寒がり、冷え性、皮膚乾燥、体重増加。
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