ストレスとCRF(CRH)
CRF(cortictropin releasing factor)(=CRH(corticorropin releasing hormone))は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(ホルモン)と呼ばれ、 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の放出を刺激する。
よくステロイドと言われる副腎皮質ホルモンの分泌を促すのは、ACTHであり、そのACTHの分泌を促すのがCRHというわけです。
CRHは中枢神経内に広く分布しておりますが、視床下部の室傍核に局在するCRHが下垂体におけるACTH分泌促進作用と密接に関連していると言われています。
ストレスを受けるとその情報は室傍核の背内側に存在するCRH産生ニューロンを活性化させる。
CRHニューロンは視床下部の正中隆起部に線維をおくっており、その神経線維の終末よりCRHが下垂体門脈中に放出される。
放出されたCRHは下垂体前葉に到達し、ACTH産生細胞よりACTHの分泌を促進し、ACTHは副腎皮質束状層からのグルココルチコイドの分泌を刺激する。
CRHの受容体は1型と2型の2タイプが存在していて、ともに室傍核、孤束核、迷走神経背側運動核に存在している。
CRH1型受容体は、副腎皮質ホルモンの放出を引き起こすストレス応答に関わるとともに下部消化管運動(結腸)の亢進にも関わる。過敏症腸症候群の原因。
CRH2型受容体はストレスから引き起こされる不安解消、食欲不振、血圧低下等に関わるとされる。胃や十二指腸といった上部消化管運動を抑制する。機能性ディスペプシアの原因。
このようにして、ストレスがいわゆるステロイドと言われるグルココルチコイドの分泌を高めることにより、糖新生による脳の機能低下を防いだり、 免疫抑制反応が起こる。
また、グルココルチコイド(ステロイド)はCRHの転写を正にも負にも調節していて、熱ショックタンパク質であるHSP90(heat shock protein 90)の量が多い組織では、ステロイド-GR複合体はホモ2量体を形成し、CRH遺伝子の5’上流域に存在する1/2GREに結合し、CRH遺伝子の転写を促進するが、室傍核のようにHSP90の少ない組織では、ステロイド-GR複合体はAP-1を構成するJunやFosタンパク質などとヘテロ2量体を形成し、CRH遺伝子の転写を起さないばかりか、AP-1によるCRH遺伝子の転写促進すらも抑制する。
ステロイドのCRH遺伝子の転写促進は、末梢におけるCRH1Rを介した肥満細胞の活性化にも関与しているように思われる。
AP-1の阻害作用の方は、まさに薬物としてのステロイドと同じメカニズムであり、薬物ステロイドと同様AP-1阻害にて抗炎症、免疫抑制作用を示しますが、AP-1阻害作用は負のフィードバックとして、室傍核ではCRHの合成・分泌を、下垂体ではACTHの合成・分泌を抑制する。
つまりAP-1阻害作用もまた、免疫抑制にに対して正の作用と、行き過ぎたときのフィードバック機構として負の作用を担っている?
一方、CRHによるACTH分泌のメカニズムはというと、ストレス後なんらかの情報が室傍核のCRHニューロンに伝達され、細胞内のcAMPレベルが上昇し、CREBがただちにリン酸化され活性型に変換することにより、 CRH遺伝子の転写が起こり、産生されたCRHはGsタンパク質と共役する特異的受容体に結合しPKAを介してACTHを放出する。
またCREBの応答配列(CRE)の下流に位置するAP-1結合領域にAP-1が結合することでもCRHの転写が促進される。
興味深いのは、細胞内のcAMPを増加させる薬物が、ACTH放出を増加させるということで、PDEを阻害するテオフィリン、Gsタンパク質からcAMPを増加させるβ2刺激薬の気管支拡張作用に付加された抗炎症作用の機序はここにあるのかもしれない。
以下の図は視床下部・下垂体ホルモンをまとめたものです。
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