ストレスとPOMC
POMC(proopiomelanocortin:プロオピオメラノコルチン)のプロ(P)は前駆体を、オピオ(O)はオピオイドとしてのエンドルフィンを、メラノ(M)はMSHを、コルチン(C)はACTHを意味する。 POMC遺伝子は主として下垂体前葉のACTH産生細胞で発現していて、CRHによって発現が誘導されると、プロセシングを受けて、ACTHやMSHなどに分解されてその作用を示す。
POMC遺伝子の発現を誘導するCRHは、Gs蛋白共役型受容体に結合したあと、cAMPの上昇からPKAを活性化し、Ca2+の上昇を介してACTHの分泌を促進するが、POMC遺伝子の5'上流域には、CREのコンセンサス配列(TGACGTCA)が存在しないため、PKAから、CREBがリン酸化を受けて活性化してコアクチベーターのCBP(CREB結合蛋白)と結合することで転写が促進されるというルートはないと考えられている。
CRHのPOMC遺伝子誘導の機序は、CREBを介した機序により産生されたc-fosがc-junとヘテロ2量体を形成してAP-1となり、AP-1結合部位と類似の配列に結合して転写を促進するか、もしくは、PCRH-RE(POMC CRH応答配列)にPCRH-REB-1(PCRH-RE結合タンパク質1)が結合することで転写が促進される可能性が示唆されている。
PCRH-REB-1はPKAによりリン酸化されうるアミノ酸残基を9箇所含むことから、CRH-cAMP系により活性化されうる。
さて、転写によりPOMCが合成された後、POMCタンパクは、エンドプロテアーゼと呼ばれる蛋白分解酵素(プロテアーゼ)により切断されます。
下垂体前葉のACTH細胞におけるPOMCの主要な最終産物は大分子γ-MSH(γメラニン細胞刺激ホルモン)、ACTH、およびβ-LPH(βリポトロピン)であり、β-LPHから生ずるβエンドルフィンはごく少量であるとされる。
下垂体中葉のMSH細胞でもACTH細胞とは違ったプロセシングが起こるが、中葉は人では胎児期のみしか存在しないため、説明は省く。
PC(pro protein convertase)1やPC2はそれぞれ753個、637個のアミノ酸残基からなるCa2+依存性のセリンプロテアーゼであり、下垂体前葉では、PC1mRNAとPC2mRNAは3~5:1の割合で 発現している。
CRHによりPOMC遺伝子の転写が促進されて、POMCが合成され、POMCがPC1により切断されてACTHが合成され、さらにCRHの作用にてACTHが分泌されるということである。
また、産生されるβエンドルフィンは中枢性のかゆみを引き起こすので、これによりストレスによるかゆみの機序が説明できる。
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