機能性ディスペプシア(FD)の治療

はじめに

機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)は、上腹部の検査(内視鏡検査、造影検査、ピロリ検査、腹部超音波検査、血液検査等)によって器質的疾患が見られないのにもかかわらず、胃痛や胃もたれといった上腹部の愁訴を感じる疾患である。

追記:機能性消化管疾患診療ガイドライン2021改訂第2版 機能性ディスペプシア(FD)にて、FDの診断に上部消化管内視鏡検査は必須ではなくなった。症状、年齢、病歴、H.pylori感染の有無、検査歴などの総合的な判断によりFDと診断して治療を開始する。ただし、アラームサイン(警告徴候)陽性を含め、器質的疾患が疑われた場合には内視鏡検査などの精査を積極的に行う。とされた。

機能性ディスペプシアの病理

大きく食事に関連した病状とあまり食事に関係しない病状の2つに分けることができる。

RomeⅢ分類ではこの2つの病状を、食後愁訴症候群(PDS:postprandial distress syndrome)と心窩部痛症候群(EPS:epigastric pain syndrome)に分けて分類している。なお、胸焼けは食道に由来する症状の一つとみなし、胃食道逆流症と診断される。

心窩部とはみぞおち(下図)のことである。

  食後愁訴症候群(PDS) 心窩部痛症候群(EPS)
食事との関係 あり なし
自覚症状の種類 辛いと感じる食後のもたれ感
(食物がいつまでも胃内に停滞しているような不快感)
早期膨満感
(食事開始後、すぐに食物で胃がいっぱいになるような感じ、それ以上食べられなくなる感じ)
心窩部痛
(心窩部に起こる不快な痛み)
心窩部灼熱感
(心窩部に起こる熱感を伴う不快症状)
強度 普通の量の食事が辛いと感じる 普通の量の食事が食べきれない 中等度以上
頻度 週に数回以上 週に1回以上
経過 6ヶ月以上前から出現し、最近3ヶ月間は上の基準を満たしていること。

胃の噴門部より食物が胃内に入ってくると、通常は縮まっている胃底部が拡張して、食物を貯留する役割を担う。その後、胃底~胃体部の粘膜下にある平滑筋が収縮と弛緩を繰り返す蠕動運動が起こり幽門部へと送られる。送られた食物は幽門括約筋により十二指腸へ送られる。

FDでは、適応的弛緩の障害により胃内に食べ物が上手く貯蔵されない早期膨満感、幽門部からの排泄障害により食物が胃内に停滞しているように感じる食後膨満感、胃の知覚神経過敏により起こる心窩部痛、心窩部灼熱感が特徴的に起こる。

胃がん等の悪性疾患を含む器質的疾患(体重減少、タール便、嚥下障害、貧血、腹部腫瘤、リンパ節腫大等の初期症状)を除外することが大切である。

また、FDはNERDやIBSとともに機能性消化器障害として捉えられ、胃食道逆流症(GERD)のうち、びらん・潰瘍症状を伴わない非びらん性胃食道逆流症(NERD)や過敏症腸症候群(IBS)を合併して、食道~胃~腸まで含めた症状が出ることが多い。

具体的にはNERDなら噴門部括約筋の筋力低下等によ胸焼け、IBSならセロトニンを介した腹痛や下痢。

機能性ディスペプシアの治療法

FDの原因としてはストレスが大きく関与していると言われている。

ストレスは、(ストレス→室傍核→CRH→CRH1型受容体→迷走神経活性化→下部消化管(結腸)運動亢進)(ストレス→室傍核→CRH→CRH2受容体→迷走神経活性化→上部消化管(胃・十二指腸)運動抑制)のような流れにより、下痢や胃の運動の抑制を引き起こす。

そのため、心療内科的治療が非常に重要である。

機能性ディスペプシアの薬の種類

一般にPDSに対しては消化管運動機能改善薬(特にアコファイド)を、EPSに対しては酸分泌抑制薬(特にPPI)を第一選択とすることが多い。抗不安薬に関しては、カウンセリングや生活改善・食事改善とともに行うことで一定の改善効果を有するという。

食事改善とは、過食、早食い、欠食、深夜の食事、喫煙、過度なアルコール等であり、生活改善とは、睡眠不足、運動不足、ストレス、過労等である。

  • コリンエステラーゼ阻害薬(アコファイド、ガナトン)・・・消化管運動促進
  • D2ブロッカー(ガナトン、プリンペラン、ドグマチール)・・・消化管運動促進。ドグマチールはプラス抗うつ、抗精神。
  • 5HT4刺激薬(ガスモチン)・・・消化管運動促進
  • H2ブロッカー(ガスター)・・・胃酸分泌抑制
  • PPI(パリエット、タケプロン)・・・胃酸分泌抑制
  • 5HT1A刺激薬(セディール)・・・抗不安
  • GABAA刺激薬(デパス、リーゼ、コンスタン)・・・抗不安
  • 除菌(ランサップ、ラベキュア)・・・ピロリ除菌
  • 漢方薬(六君子湯)・・・グレリン受容体増加作用、5HT2b,2c受容体拮抗→グレリン分泌阻害抑制作用→食欲増進作用。

参考文献:PharmaTribue(2014.3)、クレデンシャル(2014.3)

関連ページ

コメントor補足情報orご指摘あればをお願いします。

(件名or本文内でキーワード検索できます)



  • << 前のページ
  • 次のページ >>
ページトップへ