pH(水素イオン濃度)
pH(ぴーえいち、ぺーはー)とは水素イオン濃度の意味で、簡単に言えば「どれくらい酸性が強いか」を示すということである。
pH7と言ったら、水素イオン(H+)の濃度が10-7(0.0000001)だけ存在していることを指し、pH2と言ったら、10の-2乗(0.01)だけ存在していることを指すと言ったように
、pHのあとの数字が小さいほど酸性が高いことを意味する
(pH1(酸性側)・・・・pH7(中性)・・・・pH14(アルカリ性側))。
もう少し補足すれば、レモンはpH2、水はpH7、アンモニアはpH11という感じです。
ここで温泉の話に戻ると、日本には、pH1.2~10.0まで実に様々なpHの温泉があり、これは例えるならレモン水のお湯やキンカン(アンモニア)水 のお湯のようなものが存在していると思ってよい。
pHが7より小さい酸性のお湯は、H+の濃度が高く、人の皮膚に触れると、お湯と角質層の間で脱水・加水分解・変性 といった化学反応が起こって角質は痂皮化する。
脱水はショ糖に濃硫酸をかけると水分を失い炭化する反応が有名ですが、これは水分を含まない硫酸である濃硫酸に限った反応で、 水に薄められている希硫酸でこの反応は起こりません。従って、例えH2SO4が入ったお湯であっても脱水作用は起こらない。
よって、酸の皮膚への影響は専ら加水分解・変性が原因だと考えてよい。
加水分解とは、その名の通りある物質に水を加えて分解することであるが、酸性温泉における化学反応に置き換えれば、 角質成分(タンパク質、油脂)に酸触媒の存在下、水を加えることで、角質を分解、除去する反応であると言える。
タンパク質というのはいろんなアミノ酸がペプチド結合(アミド結合)によってくっついたあと、水素結合、ジスルフィド結合などで 螺旋構造を作っているものを言います。
酸加水分解反応は、アミド結合(-NHCO-)のカルボニル酸素(O)に酸のプロトン(H+)がくっつくところから始まり、ついで+(カチオン) になった炭素原子に水(H2O)がくっついて最終的にカルボン酸とアンモニウムイオンが生成する。
反応式は、湯が酸性であるのでNH2がNH3+になるので、
-NHCO- + H2O ―(H+、△)→ -NH3+ + -COOH
のような反応となる。
酸触媒の場合は、カルボニル酸素を攻撃できるくらいの酸と温度(△)が必要であるため、酸性温泉で角質をはがすためにはある程度の酸性の強さが必要 となる。
油脂(皮脂)の場合は、油脂が脂肪酸とグリセリンがエステル結合をしていることから、エステルの加水分解反応が進んで、皮脂がカルボン酸とアルコールに 分解される。
一方、変性はお湯が酸性である為にタンパク質を構成するアミノ酸のカルボキシル基の電荷が中和されるために、アミノ基のプラスの電荷の 反発力が強くなって角質細胞を構成するタンパク質の分子構造が緩むことを意味する。
pHが7より大きい塩基性(アルカリ性)のお湯は、H+の濃度は低いが、OH-の濃度が高く、人の皮膚に触れると、 お湯と角質層の間で加水分解・変性といった化学反応が起こって角質は浸潤する。
変性の機序はプラスとマイナスが変わるだけで同じですが、加水分解反応が酸の時とは微妙に異なります。 加水分解されるターゲットはケラチンなどのタンパク質、油脂、そして脂肪酸が該当します。
まず、タンパク質のアミド結合を加水分解する場合の反応式は、
-NHCO- + NaOH ―(H2O)→ -NH2 + -COONa
のような反応となる。
水酸化物イオン(OH-)がカルボニル炭素に対して求核攻撃をするところから始まり、最終的にアミンとカルボン酸のナトリウム塩が生成する。 塩基の反応は、酸の時と違い加熱の必要もなく、反応性も酸に比べると容易に進行する。
次に、油脂(皮脂)や脂肪酸であるが、油脂の場合はエステルの加水分解(けん化)が進んで、石鹸とグリセリンができ、脂肪酸の場合は 単純にHが中和されて脂肪酸のNa塩(これもまた石鹸)ができる。
自分の角質が溶解されるのみならず、自分の皮脂で石鹸ができてしまうとはなんともいえない感じではある。
このように、酸でもアルカリであっても皮膚の角質を落とす作用は持っているために温泉湯治は アトピー性皮膚炎で肥厚している角質層を取り除くために用いられる。
ただし、注意しなければならないのは、角質を取り除くことはきれいな肌になるというメリットとは裏腹に、それ自体がダメージになる ということと、防御がなくなりアレルゲンからのダメージを受けやすいことを意味し、 pH治療は訓練的、冒険的な性格をもつことを認識しておくことである。
また、皮膚の表面が弱酸性であることと、痂皮形成(防御壁構築)を狙ってか、アトピー治療に用いるのは酸性泉が主である。
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