紫外線の作用機序
一般にドルノ線と呼ばれるUVBの作用機序は、local suppressionとsystemic suppressionの二つの場合で区別して考えられている。
local suppressionとは、少量のUVBを当てた後、その部位に抗原(アレルゲン)を塗布した場合、 systemic suppressionとは、大量のUVBを当てた後、その部位とは異なる場所に抗原を塗布した場合のことを指します。
皮膚をあまり外にさらしたくないアトピー患者にとって、患部とは別の部位を紫外線にさらした際、どれくらい、どのような効果が患部で得られるかという systemic suppressionを考えることは非常に気になるところですね。
でもその前に、やはり一般的に直接患部に紫外線を与えた場合、果たしてアトピー患者にとって有用か否かを考えるために、local suppressionについて 考えていきます。
local suppression
UVBが皮膚に照射されると、紫外線照射により以下のことが起こる。
・角質内のtransウロカニン酸(trans-UCA)がcis-UCAに変換
・ランゲルハンス細胞(LC)が減少し、抗原提示能が障害
・ケラチノサイトや肥満細胞がサイトカインを産生・抑制
・何らかの機序によりサプレッサーT細胞(Ts細胞)が誘導
cis-UCAは、表皮内のLCを減少させてナイーブT細胞への抗原提示を抑制することで免疫抑制作用を示すが、これはLCに対しての直接的作用ではなく、TNF-αを介した間接的作用であるといわれる(TNF-αがない状態でUVBを照射するとlocal suppressionが抑制されるため)。
また、cis-UCAはケラチノサイトや肥満細胞からヒスタミンを遊離させ、そのヒスタミンとcis-UCAが強調的にケラチノサイトに作用してPGE2の産生を亢進させる。 PGE2はケラチノサイトからのIL-10の産生及び、Th2分化によるIL-4、IL-10産生を促してTh1分化を抑制し、IL-12、IFN-γの産生を抑制してTh1/Th2バランスをTh2側に傾ける。
紫外線は直接LCに作用して、LCのDNAを傷害することでアポトーシスを誘導すると共に、樹枝形態を変化、及び抗原提示に必要なICAM-1、B7、MHCクラスⅡ、IL-1、12などを遺伝子転写レベルで低下させて抗原提示能を抑制する。
紫外線によりケラチノサイト、肥満細胞らから産生されるサイトカイン、ケモカインは大体次の通り、
ケラチノサイト | 産生 | サイトカイン |
IL-1、IL-6、IL-15、、GM-CSF IL-1Ra、TNF-α、TGF-β、IL-10 |
CXCケモカイン | IL-8,MGSA/Gro,ENA78,IP-10 | ||
CCケモカイン | RANTES,MCP-1/MCAF | ||
抑制 | IL-7、NGF | ||
線維芽細胞 | 産生 | IL-1α,β,IL-6,IL-8,TNF-α,GM-CSF,TGF-β,SCF,bFGF,KGF,HGF,NGF,MGSA/Groα,ET-1,IGF,VEGF,MIP-1α,RANTES | |
肥満細胞 | 産生 | IL-1β,IL-3,IL-4,IL-5,IL-6,IL-8,IL-10,IL-12,IL-13,TNF-α,GM-CSF,TGF-β,SCF,NGF,VEGF,IFN-γ,MIP-1α,β | |
マクロファージ | 産生 | メIL-1,IL-6,IL-8,IL-10,IL-12,TNF-α,GM-CSF,TGF-α,TGF-β,PDGF,bFGF,NGF,SCF,VEGF,HGF,IGF,MIP-1α,β,RANTES,MCP-1,MGSA,IFN-γ,ET-1 |
この中で、免疫・痒み抑制に働いているのは、IL-1Ra(IL-1receptor antagonist)、IL-10、TGF-β(産生亢進)とIL-7、NGF(産生抑制)らのサイトカインで、他はLC遊走/生存や肥満細胞を活性化させて免疫反応を増強するサイトカインです。
免疫抑制サイトカインについて簡単に述べますが、IL-1R1aはその名の通りIL-1に競合的に拮抗するサイトカインです。IL-10はLCのB7分子の発現を減少させ、Th1細胞への抗原提示能を抑制する。TGF-βはIL-1、IL-2らを抑制し、リンパ球の増殖を抑制する(他上皮細胞以外は促進)。IL-7はリンパ球の増殖に関わるのでこれを抑制することで免疫抑制作用を示す。NGFは神経成長因子で、ケラチノサイトのアポトーシスの抑制や神経の伸長に関わっているため、抑制により表皮まで伸びてきている神経が引っ込んで痒みを感じにくくなる。
最後にサプレッサーT細胞(Ts細胞)の誘導ですが、表皮における主要な抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞がUVB照射により損傷されるとT細胞に対して 感作が成立しないので、Th1やTh2への分化はおろかTsにも分化できないことになります。
なので、Tsがどのような機序で誘導されるのか?というところは、LCに変わる抗原提示細胞として、表皮内IJ+細胞、dendritic epidermal T cell、真皮非貪食細胞らの報告もありますが、未だくわしくはわかっていません。
こうして何らかの機序で誘導されたサプレッサーT細胞は、IL-10を産生し、CD95/CD95Lを介した抗原提示細胞のアポトーシスを起こして免疫抑制作用を示す。
systemic suppression
systemic suppressionでは、抗原投与部位は紫外線照射されていないので、ランゲルハンス細胞は直接傷害されないで、 照射された皮膚で産生された因子が血中に入り、離れた部位に達して作用を示す。
なので、個々のメカニズムはlocal suppressionと同じですが、LCが直接抑制されないことから大量のUVB照射が必要となります。
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