アスペルギルス属(Aspergillus)

アスペルギルス(Aspergillus)は、土壌、植物の堆肥、室内のほこりなどの環境中に存在する真菌(糸状菌)の一種で、この属には数百種のカビが含まれます。

環境中どこにでもいる真菌ですが、通常は人の体に侵入してきても自分の免疫細胞によって処理されるので問題にはなりません。

しかし、白血病やHIV等の免疫が低下する疾患にかかっていたり、ステロイドや免疫抑制薬を使用していたりすると、好中球やT細胞の数が減少して、日和見感染症を引き起こします。

アスペルギルスは肺に入って肺胞に感染すると、そこから血管内へと侵入し血管を破壊し、出血や血栓を伴うアスペルギルス症と呼ばれる感染症を引き起こします。また、血液を介して菌が全身に広がり、髄膜炎の原因になったりすることもあります。

診断方法としては以下のようなものがあります。

  • 胸部X線やCTでのスリガラス陰影(ハローサイン:肺のCTスキャンにおいて、肺組織の中にある結節(固い塊)の周囲に、低吸収域(より暗い領域)が見られる所見)
  • アスペルギルス抗原:アスペルギルス抗原の検出に最も一般的に使用されるのは、ガラクトマンナン検査です。ガラクトマンナンはアスペルギルスの細胞壁成分であり、血液や気管支肺胞洗浄液(BAL)などの体液中に存在する場合、感染を示唆します。擬陽性はペニシリウム属(ペニシリン系抗生物質含む)、クリプトコッカス属の真菌に罹患している場合等。
  • アスペルギルス抗体:血液中のアスペルギルスに対する特異的抗体の存在を検出することで、アスペルギルス感染症の診断に寄与します。
  • β-グルカン:β-グルカンは、アスペルギルスを含む多くの真菌の細胞壁に存在する多糖類です。β-グルカンの検査は、アスペルギルスに限らず、広範な真菌感染症の診断に有用です。β-グルカンはアスペルギルスに特異的ではないため、感染の広範なスクリーニングとして用いられますが、アスペルギルス感染の診断を確定するためには追加の検査が必要です。
  • 肺生検:顕微鏡で糸状菌であることや菌糸が45度位の角度で分岐して菌体を形成しているかどうかを調べます。

治療は、ポリコナゾールが第一選択。使用できない場合はアムホテリシンBが第二選択(強力だが腎障害等の副作用が強いため)。

アスペルギルス属のカビの中で人に影響を与える種としては以下のようなものがあります。

A. fumigatus(アスペルギルス・フミガトゥス)

  • A. fumigatusは環境中で最も一般的なアスペルギルス種で、土壌、腐植質、植物の残骸などに広く存在します。
  • 人間や動物に対して呼吸器感染症を引き起こす可能性があります。免疫力が低下している人にとって特に危険で、重篤な肺の感染症である侵襲性アスペルギルス症を引き起こすことがあります。
  • 豊富な胞子を形成し、これらは空気中を漂って広がります。このため、病院などの環境では特に注意が必要です。

A. flavus(アスペルギルス・フラバス)

  • アフラトキシンを産生することで知られています。これは強い発癌性を持つ毒素で、穀物やナッツなどの食品に汚染されると健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。
  • 暖かく湿度の高い環境を好むため、特に温暖な地域で問題となります。

A. nidulans(アスペルギルス・ニジュランス)

  • A. nidulansは遺伝学や細胞生物学の研究においてモデル生物としてよく使用されます。このカビは遺伝子操作が容易であり、細胞の分裂や遺伝子発現の研究に役立ちます。
  • 他のアスペルギルス種ほど一般的な病原体ではありませんが、稀に人間に感染症を引き起こすことがあります。
  • 明瞭な胞子形成を行い、その形態学的特徴は研究において重要です。

真菌の種類

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