低/高リン血症、低/高カルシウム血症
生体内の貯蔵組織としては、リンは骨と細胞膜、DNA、カルシウムは骨に多く存在。
- 腎機能が悪化→リンの排泄が低下して血中リン濃度の上昇。リン濃度の上昇は、血中カルシウムと結合してリン酸カルシウム(骨のヒドロキシアパタイトと同じ)となり、血管壁や心臓弁等に沈着して血管石灰化を招き、動脈硬化が進行して心血管疾患を引き起こすとともに二次性副甲状腺機能亢進症のリスク。またリン濃度の上昇は、リン利尿ホルモン(FGF-23)の分泌を促進し、FGF-23は腎臓でのビタミンDの活性化を抑制する(リンの蓄積を防ぐフィードバック機構)
- 腎機能の悪化→ビタミンDを活性型ビタミンD(1.25-ジヒドロキシビタミンD3)に変換する機能が低下して、活性型ビタミンD産生能が低下する。活性型ビタミンDは腸からのカルシウムとリンの吸収を促進するため、活性型ビタミンD3の低下は血中カルシウムとリンの濃度を低下させる(低カルシウム血症)
- リンの増加とカルシウムの低下は副甲状腺ホルモン(PTH:パラソルモン)の分泌を促進する。PTHは破骨細胞を活性化して骨からカルシウムとリンの放出を促進して血中カルシウムとリンの濃度を上昇させる。PTHはまた、腎臓でのリンの再吸収を抑制し、リンの尿中排泄を促進する。(リンの放出<リンの排泄)のため、PTHは血中カルシウムは増加させるが、血中リン濃度は低下させる。
リン カルシウム 活性型VD3 ↑(吸収) ↑(吸収) PTH ↓(骨溶解<排泄) ↑(骨溶解) - 高リン血症を認める場合は、末期腎不全への進展リスクを抑える可能生があるため、P吸着薬の使用を提案する。P制限食については、生命予後に及ぼす効果は明らかではなかった。
- 活性型ビタミンDが尿たんぱくを抑える(平均-16%)ことによる腎保護作用があるかは不明
- 保存期CKD患者に対する高リン血症に対する治療において、Ca非含有P吸着薬はCa含有P吸着薬に比べて、死亡、末期腎不全のリスクや血管石灰化の進行を軽減する可能性があることから提案される。
- Ca含有P吸着薬は、血中リン濃度が高い状態で使用すると、血中カルシウム濃度を上昇によりカルシウムとリンが結合して血管や他の組織の石灰化のリスクが増加する。血中カルシウム濃度の上昇は通常であればPTHの分泌を抑制するが、活性型ビタミンD3が不足している腎不全の患者では低カルシウム血症で常にPTH分泌が刺激されており、Ca含有P吸着薬の一過性のカルシウム上昇のPTH分泌抑制は結果的に打ち消される。
- 結果、リンとカルシウム、PTHのバランスが重要ということ。基本的にはリンが高い場合はCa非含有P吸着薬、カルシウムが低い場合は活性型ビタミンD製剤を使用する感じ
薬物療法について
分類 | 成分名 | 商品名 | 規格・剤形・補足 |
---|---|---|---|
低リン血症治療薬(リン酸塩製剤) | リン酸二水素Na・無水リン酸ニNa | ホスリボン | 配合顆粒 |
低リン血症治療薬(抗線維芽細胞増殖因子23抗体) | ブロスマブ | クリースビータ | 皮下注 |
高リン血症治療薬 | セベラマー塩酸塩 | レナジェル フォスブロック |
錠250㎎ |
沈降炭酸カルシウム | カルタン | 細粒83%、錠250㎎/500mg、OD錠250mg/500mg | |
炭酸ランタン | ホスレノール | 顆粒分包250mg/500mg | |
ビキサロマー | キックリン | 顆粒86.2%、カプセル250mg | |
クエン酸第二鉄 | リオナ | 錠250㎎ | |
スクロオキシ | ピートル | 顆粒分包250mg/500mg、チュアブル錠250mg/500mg | |
PTH分泌抑制薬(Ca受容体作動薬) | シナカルセト | レグパラ | 錠12.5mg/15mg/75mg、透析下の副甲状腺機能亢進症、副甲状腺癌等 |
エテルカルセチド | パーサビブ | 静注、透析下の副甲状腺機能亢進症 | |
エボカルセト | オルケディア | 錠1㎎/2mg、透析下の副甲状腺機能亢進症、副甲状腺癌等 | |
低カルシウム血症治療薬(PTH製剤含) |
P>Ca>PTHの順に優先順位を決めて管理目標値内に維持することが推奨されている。
リン関連薬
血中リン値が高い場合は、リン吸着薬が使用される。リン吸着薬は食品由来のリンを吸着するため、食事の前後に服用する。
- 炭酸カルシウム製剤(カルタン、沈降炭酸カルシウム)・・・食直後服用。保存期CKDにも使用可。
- セベラマー塩酸塩(レナジェル、フォスブロック)・・・食直前服用。透析患者のみ。カルシウム非含有。下痢の頻度高いが軽度。
- 炭酸ランタン(ホスレノール)・・・食直後服用。保存期CKDにも使用可。カルシウム非含有の金属製剤。
- ビキサロマー(キックリン)・・・食直前服用。透析患者のみ。カルシウムや金属を含まないポリマー製剤
- クエン酸第二鉄水和物(リオナ)・・・食直後服用。保存期CKDにも使用可。カルシウム非含有の金属製剤
低カルシウム血症関連薬(PTH促進薬)
血中PTHが高値で、PまたはCaが正常ないし低値であれば、活性型ビタミンD製剤投与が考慮される。活性型VD3はPをあげるので、Pが高値の場合は使用しない。
- アルファカルシドール(ワンアルファ、アルファロール)
- カルシトリオール(ロカルトロール)
- ファレカルシトリオール(ホーネル、フルスタン)
- マキサカルシトール(オキサロール)
- エルデカルシトール
骨粗鬆症におけるPTH製剤の間歇投与での使用は、骨を溶解して血中Ca濃度を上げる作用はなく、骨形成を促進する。
すなわち、リンの排泄を促進し、血中Ca濃度を増価させるPTH製剤は現在販売されていない。
高カルシウム血症関連薬(PTH抑制薬)
血中PTHが高値で、PまたはCaが正常ないし高値であれば、シナカルセトを使用する。シナカルセトはカルシウム受容体に作動し、主としてPTH分泌を抑制することで、血清PTH濃度を低下させる。
- シナカルセト塩酸塩(レグパラ)
骨粗鬆症の疼痛で、PTHに拮抗して骨吸収を抑制するカルシトニンを使用することがある。
また、成人T細胞白血病(ATLL)ではPTHrP(副甲状腺ホルモン関連ペプチド)の産生が増加することがあり、これが高カルシウム血症の原因の一つとなり得る。
高カルシウム血症の急性期の治療は、
- 生食投与
- 増加した体液を減らすためにループ利尿薬
- ビスホスホネート製剤でCaの溶け出しを抑制
- カルシトニン製剤でPTHに拮抗して、Caとリンを低下させる。
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