急性腎障害(AKI=Acute Kidney Injury)
詳しくは、AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016を参照。
定義
- 血清クレアチニン濃度が48時間以内に0.3mg/dL変化
- 血清クレアチニンの基礎値から7日以内に1.5倍上昇
- 尿量0.5ml/kg/h以下が6時間以上持続
以上3つの内1つを満たせばAKIと診断されます。
ステージ分類
血清クレアチニン基準 | 尿量基準 | |
---|---|---|
ステージ1 | 血清クレアチニンが0.3mg/dL以上変化or 血清クレアチニンが1.5~1.9倍上昇 |
0.5mL/kg/h未満6時間以上 |
ステージ2 | 血清クレアチニンが2.0~2.9倍上昇 | 0.5mL/kg/h未満12時間以上 |
ステージ3 | 血清クレアチニンが3.0倍上昇or 血清クレアチニンが4.0mg/dLまでの上昇or 腎代替療法開始 |
0.3mL/kg/h未満24時間以上or 12時間以上の無尿 |
※血清クレアチニン値と尿量による重症度分類では重症度の高い方を採用します。
急性腎障害では、薬物中毒、腎臓への血流減少、腎臓感染などが原因で、急速に腎機能が低下します。
障害部位により、腎前性、腎性、腎後性の3種に分類できます。
腎前性
腎前性腎障害は腎臓に入る前の障害(前負荷)による腎血流の低下と、それに伴って腎臓への酸素供給が阻害されることによる腎機能の障害です。
心臓の前負荷は体液量増加による容量負荷、後負荷は血管が収縮することによる圧負荷なのに対して、腎臓の前負荷は逆で、体液量が減る=血流が不足してろ過機能が低下することをさし、後負荷は輸出細動脈の血管が広がって圧を保てなくなってろ過機能が落ちること指す。
腎臓に入る前の障害とは具体的には、脱水、心不全、出血、低血圧などが該当します。つまり心不全であることは腎障害を引き起こす。逆に、腎障害も体液貯留や高血圧、エリスロポエチン不足で貧血となることで心臓に負担をかけることで心不全を引き起こす。
尿中Naはほぼ再吸収されるため、尿中Na濃度が低下する(尿中カリウムも一般的には再吸収されて低下する)こと、乏尿、腎臓自体が障害されていないのでBUNやクレアチニンの値は問題ない。
これらが原因で腎血流量が少なくなると、尿量が減り、尿毒症が引き起こされる可能性が高くなります。また高血圧のリスク、水の排泄ができなくて浮腫にもなります。
腎血流量が低下すると、体液が少ないので圧力を上げるために腎傍糸球体装置からレニンが分泌され、レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシン1に変換して、ACEでアンジオテンシン2に変換されて血管平滑筋のAT1受容体に結合して血管収縮(直接and血管内皮細胞のエンドセリン放出促進のダブル効果でPLC↑→Ca2+放出→血管収縮)、副腎のAT1受容体からはアルドステロンが分泌→Naを再吸収して、Kを分泌し、血圧を上げて腎機能を低下させ、心臓においては後負荷(圧負荷)を悪化させる。
治療法としては、
- 補液療法・・・ 脱水が原因で腎前性腎不全が発生した場合、水分や電解質を補給するために、経口または静脈による補液療法が行われます。これにより、血液容量が増加し、腎臓への血流が改善します。
- 強心薬・・・心臓のポンピング機能を向上させるために強心薬(ドパミン、ドブタミン)が使用されます。これにより、腎臓への血流が増加し、腎機能が改善する可能性があります。
- 利尿薬・・・浮腫の改善
トリプルワーミーとは、併用すると急性腎障害を引き起こしやすい3種類の薬剤(ARB/ACE阻害薬+利尿薬+NSAIDs)のことで、
- ARB/ACE阻害薬・・・輸出細動脈を拡張することで糸球体内圧を減少させて腎保護作用を示す反面、拡張による内圧低下はろ過機能の低下にもつながるため、急性腎障害を引き起こす一つの要因になる。
- 利尿薬・・・輸入細動脈の体液量を減少させるためろ過量機能が低下する。
- NSAIDs・・・輸入細動脈の血管を収縮させて血流量を低下させるため、ろ過機能が低下する。
以上の異なる機序により腎障害を起こしやすい。
腎前性腎障害の代表的な疾患とその治療法
- 心疾患(心不全など)→利尿剤、強心薬
- 体液量減少(脱水など)→補水液
- 急性尿細管壊死(虚血性ATN)・・・重度の低血圧、ショック、オペ後、敗血症(体内のどこかでの感染が血流に細菌、ウイルス、真菌、または他の微生物が入り込むことで起こり、全身に炎症反応)→抗菌剤、補水液、昇圧薬(ノルアドレナリン)
腎性
腎性腎障害は腎臓の組織へのダメージにより起こります。
炎症・免疫反応によって障害されるため、好酸球↑、タンパク尿、尿潜血、GFR↓、乏尿、血清BUN↑、Cre↑等が診断基準の一つ
腎臓の糸球体、間質(主に尿細管の周りに存在する結合組織で栄養を助ける。糸球体の間隙はメサンギウム)、尿細管のどこが障害されるかで病名が異なります。
腎性腎障害の代表的な疾患とその治療法
- 急性糸球体腎炎(AGN)・・・糸球体が急速に炎症を引き起こす状態。原因の多くは免疫系の疾患。
- 感染後・・・溶連菌感染、特にA型β溶血性連鎖球菌溶連菌の一種であるA群β溶連菌感染は、急性糸球体腎炎の原因の一つ。特に小児において一般的。A群β溶連菌による喉の感染(扁桃腺炎)や皮膚感染(丹毒)の後、免疫系の反応によって腎臓に障害が生じ、急性糸球体腎炎を発症。治療は抗生剤。
- 免疫疾患・・・
- ループス腎炎・・・全身エリテマトーデス(SLE)による
- IgA腎症・・・風邪等を機にIgAが糸球体のメサンギウムに沈着することで起き、蛋白尿・血尿が見られる。細かい詳細は「IgA腎症診療指針」や「IgA腎症診療ガイドライン」で確認する。治療としてはRA系阻害薬、副腎皮質ステロイド(メチルプレドニゾロン低用量0.4mg/kg/日 24~32mg/日)が末期腎不全への進展抑制、腎機能障害の進行抑制ならびに尿蛋白減少効果を示すため最も推奨される。ついで免疫抑制薬、口蓋扁桃摘出術(+ステロイドパルス療法)、n-3系脂肪酸(魚油)、抗血小板薬、SGLT2阻害薬などが選択される。
- 関節リウマチ・・・リウマトイド因子とIgGの免疫複合体がメサンギウムに沈着して炎症や組織損傷を引き起こす。
- 急性間質性腎炎(AIN)・・・腎臓の間質と尿細管が急速に炎症を起こす状態
- 薬剤性(ペニシリン、サルファ剤、NSAIDs、PPI、抗ヘルペス剤等)。
- PPIはAINの原因薬剤として有名であるが、CKDに対しても長期的なPPIがリソソームのタンパク質の恒常性を阻害し内皮細胞の酸化ストレスを増加させる可能性や、PPIによって引き起こされる低マグネシウム血症の関与が示唆されている。後者はPPIが低マグネシウム血症のリスク因子であり、低マグネシウム血症がCKD発症のリスクとなることで説明される。
- アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルは腎排泄型薬物であるため、CKD患者への投与の際は、排泄遅延による血中濃度上昇が認められることから、投与量を減量する。
- NSAIDsはeGFR<30mL/分/1.73㎡の症例及びRA系阻害薬、利尿薬、リチウム製剤使用中には投与を避け、eGFR<60mL/分/1.73㎡の症例では継続的な投与を避ける
- 感染症・・・腎盂腎炎(9割は大腸菌によって引き起こされる)
- 免疫疾患・・・SLE
- 薬剤性(ペニシリン、サルファ剤、NSAIDs、PPI、抗ヘルペス剤等)。
- 急性尿細管壊死(毒性ATN)・・・特定の薬物等により腎臓の尿細管が壊死し、その結果、腎機能が急速に低下する状態。血流の低下により引き起こされるのは腎前性の虚血性ATN
- 薬剤性(NSAIDs、アミノグリコシド、バンコマイシン、重金属、抗がん剤、造影剤等)
- 横紋筋融解症、溶血(ミオグロビンやヘモグロビンの腎臓への沈着)
腎後性
腎後性腎障害は尿の排出の障害により起こります(後負荷=腎臓から出ていくところが閉塞=圧負荷)。
水腎症(hydronephrosis)は、尿の排泄の障害によって一時的または持続的に腎盂が拡張し、腎臓の構造が損なわれる状態を指します。
水腎症の診断には超音波検査、CTスキャン、MRI、排尿時腎盂造影(IVP)などが用いられます。
腎後性腎障害の代表的な疾患とその治療法
- 尿路結石・・・水分摂取、結石排出薬、衝撃波結石破砕(ESWL)、開腹手術
- 前立腺肥大・・・α遮断薬
- 腫瘍性尿路閉塞・・・腫瘍や瘢痕組織が尿路を塞ぐ。尿カテ
- 神経因性膀胱・・・脳血管障害、パーキンソン(コリン作動性神経が亢進し膀胱が過敏になり頻尿、尿意切迫、尿失禁、残尿感と排尿困難などのOAB症状)
関連ページ
- 腎臓病(AKIとCKD)の薬
- 慢性腎臓病(CKD)とステージ分類
- 腎臓病(AKIやCKD)の悪化で引き起こされる病態
- 腎臓病の人が気を付ける生活習慣
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