糖尿病の三大合併症(しめじ)
網膜、神経組織、腎組織の細胞はインスリン非依存でグルコースを取り込むため、グルコースとその代謝物が蓄積しやすく、それがこの臓器に合併症が起こりやすい理由でもある。
糖尿病性網膜症
糖代謝異常による高血糖はポリオール経路を亢進させる(処理しきれないグルコースがTCA回路だけでなく、ポリオール経路へと流れるため)。
グルコースからポリオール経路でアルドース還元酵素を元に作られるソルビトールは、細胞膜を透過できないため、グルコースに比べて血中に蓄積しやすい上、ソルビトールから作られるフルクトースは蛋白質(ヘモグロビン、血小板など)との結合がグルコースの10倍以上も高いため、糖化蛋白質になりやすく、AGEsを多量に生成するため、血管壁を傷つける作用は強いです。→網膜、末梢血管、腎血管の損傷
また、フルクトースが解糖系からはずれたフルクトース-3-リン酸経路へと進むと、代謝物の3-デオキシグルコソンがAGEs(終末糖化合物)と呼ばれるものを産生し、それが血管障害を引き起こします。
主な症状は目のかすみ、視力の低下等。進行すると失明に至る。
糖尿病網膜症は、網膜内の血流が悪くなって毛細血管から血液がにじみ出て点状出血を生じる単純網膜症から、増殖前網膜症へと進行し、血管閉塞、網膜浮腫が見られる状態で放置しておくと、虚血部分に血液を送ろうとする新生血管が伸びていく増殖網膜症へと移行する。
新生血管はもろく出血しやすいので、新生血管が破れて硝子体内に出血を起こしやすく、より悪化すると増殖膜により網膜剥離、ひいては失明をきたすことがある。
増殖前網膜症の段階から、黄斑部の毛細血管が傷害されて血管から血液中の水分が漏れ出し、黄斑部にたまり、浮腫が起こる(黄斑浮腫)事がある。
HbA1cが10%を超えている人は1~2ヶ月に一度は眼科検診を受けたほうが良い。
増殖した新生血管から出血した血液が硝子体内に移行し、失明が起こらないように、網膜の虚血部分にレーザー光を照射して熱で凝固して新生血管の発生を阻止するレーザー抗凝固術や、黄斑浮腫の減少と新生血管の退縮目的で硝子体内に注入する抗VEGF製剤、ステロイドの後部テノン嚢下または硝子体内注射も炎症を抑えて黄斑浮腫を抑える。
治療方法は加齢黄斑変性症と同じである。
糖尿病性腎症
これも過剰な糖により迂回路であるポリオール経路が亢進しソルビトールが生成、糸球体基底膜に蓄積することで浸透圧の上昇、NADPHの低下、フルクトースによるAGE-RAGE系の活性化が、糸球体過剰ろ過、微量アルブミン尿、腎メサンギウム領域の拡大、糸球体硬化症、間質尿細管の炎症、繊維化といったすべての病態の発症プロセスに関わる。
機序的にアルドース還元酵素阻害薬がソルビトールの生成を抑制するので腎機能低下にも効果があるはずだが、一定した見解は得られていない。
主な症状は、血圧上昇、体のむくみ等。進行すると腎不全になり透析を余儀なくされる。
糖尿病診療ガイドライン2024 9章「糖尿病腎症」より
- 尿中アルブミン排泄の増加は腎症における腎機能低下のリスクとなるか?
- 尿中アルブミン排泄の増加は腎症における腎機能低下のリスクとなる。
- 尿中アルブミン排泄の減少は腎機能低下の抑制につながる。
- タンパク質の摂取制限は糖尿病性腎症の進行抑制に有効か?
- 顕性アルブミン尿期以降において、その進行抑制に対して、栄養障害リスクのないタンパク質摂取制限は有効である可能性があるが、臨床的エビデンスは十分ではない(推奨グレードU)。
- RAAS阻害薬は腎症の発症・進行抑制に有効か?
- ACE阻害薬とARBはアルブミン尿を有する腎症の進行抑制に有効であるため推奨される(推奨グレードA)
- ACE阻害薬あるいはARBによる治療中でアルブミン尿を有する糖尿病患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコド受容体(MR)拮抗薬(フィネレノン)は、腎症の進行抑制に寄与し得る(推奨グレードB)
- SGLT2阻害薬は腎症の進行抑制に有効か?
- アルブミン尿を有する2型糖尿病患者の腎症の進行抑制にSGLT2阻害薬が推奨される(推奨グレードA)。
- GLP-1受容体作動薬は腎症の進行抑制に有効か?
- 2型糖尿病患者の腎症の進行抑制にGLP-1受容体作動薬は有効である(推奨グレードB)。
糖尿病性末梢神経障害
末梢神経内でのソルビトールの蓄積により、グルコースから作られるイノシトールリン脂質の構成成分であるミオイノシトールの細胞内取り込みが低下(Na-KATPase活性低下による)し、神経伝導速度が遅延します。→末梢神経障害。
主な症状は両側左右対称で、手足のしびれ、ほてり、痛み等。進行すると足の潰瘍や壊疽が現れる。
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