HIV
- HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」(Human Immunodeficiency Virus)の略称で、エイズ(後天性免疫不全症候群)を引き起こす原因となるウイルスです。HIVがウイルス、AIDSが疾患です。
- HIVは性行為や注射器の共有、輸血、妊娠や出産、授乳での母子感染等により感染者から非感染者に伝播します。
- 対照的に、HIVは日常的な社会的接触、空気、水、または食物を介しては感染しません。また、握手、抱擁、キス(唾液には通常HIVが十分な量で存在しない)、共有された食器やトイレ、そして公共の場所やお風呂での接触を通じても感染はしません。
- HIVの感染メカニズムは以下の通りです。
- HIVはまずCD4陽性リンパ球(ヘルパーT細胞およびマクロファージ)の表面のCD4分子に結合した後、同じく表面に存在するCCR5またはCXCR4というコレセプターに結合します。これらのレセプターの役割は、HIVが宿主細胞の膜を通過して細胞内に侵入するのを助けることです。
- これらの結合が行われると、HIVは宿主細胞の膜と融合し、その遺伝物質(RNA)を細胞内に注入します。
- 通常のRNAウイルスであれば、注入されたウイルスのRNAゲノムは細胞内でmRNAとして機能し、宿主細胞のリボソームによって「読み取られ」、ウイルスのタンパク質を合成します。これにより、ウイルスのカプシド(タンパク質の外殻)、複製に必要な酵素、その他のウイルス成分が生成されます。また、RNAウイルスはRNAポリメラーゼを使って自身のRNAを鋳型として新しいRNA鎖を合成することができます。この複製過程には校正機能がないため、複製中に遺伝子変異が頻繁に発生し、ウイルスの新しい株が生じやすいです。
- HIVは一般的なRNAウイルスの特徴に加えて、RNAをDNAに逆転写する能力を持っているため、レトロウイルスとして区別されています。
- HIVは自身のRNAから逆転写酵素によってDNAを作り、単一鎖のRNAを二重鎖のDNAに変換した後、逆転写されたウイルスDNAは、さらに別のウイルス酵素であるインテグラーゼによって宿主細胞のゲノムに統合します。この統合されたウイルスDNAをプロウイルスと呼びます。
- 通常人のDNAはmRNAに転写されてタンパク質を合成するのですが、プロウイルスは宿主細胞の転写・翻訳機構を利用して、ウイルスRNAとウイルス特有のポリプロテイン(タンパク質の前駆体)を合成します。
- ウイルスのプロテアーゼは、これらの長いポリプロテインを特定の位置で切断し、個々の機能的なタンパク質に分解します。これには、カプシドタンパク質、逆転写酵素、インテグラーゼなど、ウイルスの構造と複製に必要なタンパク質が含まれます。プロテアーゼによる切断と分解は、ウイルス粒子の成熟に不可欠です。この過程がなければ、ウイルス粒子は不活性で感染力を持たない状態のままになります。
このようにゲノムレベルで細胞性免疫機能を低下させることで、免疫が不全状態に陥り、悪性腫瘍や日和見感染(カリニ肺炎、サイトメガロウイルス感染症等)を誘発してやがて死亡する。
- 感染の初期段階では、多くの場合、症状が非常に軽微であったり、全く現れなかったりします。しかし、一部の人々では感染後数週間で軽度の症状が現れることがあります。これらの初期症状は、しばしば風邪やインフルエンザに似ています。
- こうした症状は通常、数週間で消失します。その後、HIV感染者はしばしば長い無症状期間に入ります。この期間は、人によって異なりますが、治療を受けない場合、数年から10年以上続くことがあります。
- 無症状期間中、感染者は外見上健康に見えるかもしれませんが、HIVは静かに免疫システムを攻撃し続けます。時間が経つにつれて、免疫システムは徐々に損傷を受け、さまざまな感染症やがんに対する抵抗力が弱まります。この段階になると、エイズ(後天性免疫不全症候群)と診断されることがあります。
- 現在、HIV感染は完全には治ることはありませんが、抗レトロウイルス療法(ART)によってウイルスの増殖を抑え、免疫システムの機能を維持し、エイズの発症を防ぐことができます。
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