かゆみ受容体

かゆみの刺激の元となる、ヒスタミンなどの生理物質は、受容器内(かゆみ受容器?)の受容体に結合し、その刺激が電気信号に変換されることでかゆみが伝わるという話は前項にてお話しました。

もちろん、神経に限っても、受容体は受容器内に存在するとは限らず、後根神経節、神経終末に存在するものもあります。

ここでは、最近、サブスタンスPやCGRP含有神経に共存が確認されて、神経原性炎症への関与が示唆されるTRPV1(VR1:バニロイド1受容体)をはじめとした TRPファミリーを中心に述べます。

温覚と冷覚は主としてAδ繊維で伝達されますが、TRPV1、TRPM8、TRPA1により感知される温度はC繊維によっても伝達されます。

刺激の分類 刺激の種類 受容体 他の有効刺激 発現部位
熱覚 43℃↑ TRPV1(VR1) カプサイシン、プロトン、カンフル、アリシン、脂質、2-ARB、バニロトキシン 感覚神経、脳、膀胱上皮
52℃↑ TRPV2(TRL1) 機械刺激、2-APB 感覚神経、脊髄、肺、肝臓、脾臓、大腸、免疫系細胞
温覚 32~39℃↑ TRPV3 2-APB、サイモール、メントール、カンフル、カルバクロール、不飽和脂肪酸 皮膚、感覚神経、脳、脊髄、胃、大腸、免疫系細胞
27~35℃↑ TRPV4 機械刺激、低浸透圧 皮膚、感覚神経、脳、腎臓、肺、内耳、免疫系細胞
36℃↑ TRPM2 脳、脾臓、免疫系細胞 cyclic ADP-ribose、β-NAD+、ADP-ribose
warm TRPM4 カルシウム 心臓、肝臓、膵臓、免疫系細胞
27~35℃↑ TRPM5 カルシウム 味細胞、膵臓、免疫系細胞
冷覚 25~28℃↓ TRPM8(CMR1) メントール、イシリン、膜リン脂質 感覚神経、膀胱上皮、前立腺
17℃↓ TRPA1(ANKTM1) マスタード、シナモアルデヒド、アリルイソチオシアネート、カルバクロール、アリシン、カルシウム、機械刺激 感覚神経、内耳
痛覚 ATP P2X    
ブラジキニン B1、B2    
プロトン(酸) ASCC    
カプサイシン TRPV1(VR1)    
PG PG    
セロトニン 5-HT    
NGF TrkA    
痒覚 ヒスタミン H1    
トリプターゼ prtease-activated    
TNF-α TNF    

アリシン(ニンニクの辛味成分)、アリルイソチオシアネート(わさびの辛味成分)、シナモアルデヒド(シナモンの辛味成分)、カルバクロール(オレガノの主成分)、サイモール(タイムの主成分) 、2-APB(2-aminoethoxydihenyl berate)

メントールは活性化温度閾値を25℃→30℃に上昇させるため、より高い温度で冷たく感じられるようになるという。

ATP(adenosine 5'-triphosphate)受容体のうちP2X受容体はTRPV1と共存して後根神経節(DRG)のC線維およびAδ線維に発現していることが明らかとなり、ATPが C線維あるいはAδ線維を介して咳反射を亢進させている可能性が考えられている。

熱や冷感による痒みの抑制には、受容体活性化Ca2+チャネルの分子実体であるTRP(transient receptor potential)スーパーファミリーが深く関わる。

TRPチャネルはショウジョウバエの光受容体異常変異株の原因遺伝子として同定されたtrpの変異株で光応答電位が一過性で持続せず、細胞外からのCa2+流入が減弱し、眼の光応答に異常があることから名づけられた。 現在、TRPチャネルはTRPC、TRPV、TRPM、TRPML、TRPN、TRPP、TRPAの7つのサブファミリーに分けられている。

43℃以上の熱を感知するTRPV1は後根神経節の小型の細胞(C繊維の細胞体、Aδ繊維にも少し存在)で生じる。 TRPV1は熱刺激だけでなく、刺激やカプサイシン(唐辛子の成分)でも活性化されるので、たとえ43℃以上でなくても炎症によりpHが低下している患部ではTRPV1が刺激される。

さらに、TRPV1を直接活性化しないような弱い酸性であってもTRPV1の活性化閾値を体温(36.5℃)以下に低下させ、また、 ATPやブラジキニンがプロテインキナーゼCによってTRPV1をリン酸化して、その活性化閾値を(32℃程度)まで低下させることから、炎症時には体温自体でTRPV1が活性化されるということが言える。

ただし、TRPV1は繰り返し刺激されると、細胞内Ca2+とカルモジュリン複合体がTRPV1に結合して チャネルの不活性化をもたらすことで、TRPV1の細胞外Ca2+依存的な脱感作が起こることが知られている。

痒いときに熱いお湯を浴びると、一瞬「クゥ~」という感覚があった後はそんなに気持ちよくも感じなくなる ことを考えれば、熱による脱感作が起こったためであろう。

43℃以上は侵害刺激になるため、痒みの沈静化に利用するのは避けるべきである。 ちなみに43℃以上?の熱は熱覚としてではなく冷覚として処理される。

TRPV1の多くがCGRPやサブスタンスP含有神経に共発現していることに加えて、TCR4やCD14とも共発現していること、TRPV1がアレルギー性の炎症により増加することなどから、TRPV1を介したCGRPなどの放出が炎症を惹起する可能性が示唆される(神経原性炎症)。 一方で、CGRPおよびサブスタンスP神経と共存していない、TRPV1単独のものもごくわずかではあるが存在する。

TRPV2はTRPV1と相同性が高いが、より高い侵害熱刺激である52℃以上の温度で活性化する。その多くは太い有髄でみられる。 また、TRPV2はマクロファージに発現していてformyl Met-Leu-Phe(fMLP)によるマクロファージの遊走能に関わることが報告されている。

TRPV3とTRPV4は皮膚や免疫系の細胞に発現している温刺激受容体であり(TRPV3は32℃以上、TRPV4は27℃以上)、皮膚ではケラチノサイトに存在している。 TRPV3は表皮の体温の変化を中枢に伝えることが主機能とされるが、温度以外にもシップや軟膏の成分の一つであるカンフルやメントールにも反応する。 TRPV4は低浸透圧で活性化されるチャネルとして、腎臓や内耳などの上皮細胞に特異的に発現している。また、表皮を含む上皮細胞にも発現しており、 上皮細胞のバリアー機能にかかわることが推定されている。 TRPV4と思われるチャネル活性がインテグリンリガンドに対するBリンパ球応答を制御しているとの報告もあり、アレルギー疾患とのかかわりが示唆される。

TRPM2はADP(adenosine diphosphate)-riboseやβ-NAD(nicotinamide adenine dinucleotide)+によって活性化するチャネルであることは知られているが、最近、温度感受性チャネル(36℃以上)でもあることが示された。 作用は、まだ不明な点が多いが、膵臓でインスリン分泌に関与することや、cyclic ADP riboseがリガンドとして働くことが示されるなど徐々に解明されてきている。

TRPM4は15~35℃の温度帯で活性が上昇する。細胞内Ca2+濃度の上昇が活性化には必須であり、活性化したTRPM4は、膵臓のβ細胞において、グルコース負荷に伴うインスリン分泌に関与するといわれている。 また、TRPM4の活性化はCa2+透過性が小さいために、その活性化は1価の陽イオンの流入をもたらすが、脱分極が免疫細胞活性化をもたらすためには、電位依存性Ca2+チャネル活性化と連動していることが必要とされる。 TRPM5は免疫系細胞で発現が報告されているが、その機能は不明である。

次に冷覚だが、冷覚で重要なのは、8~28℃、メントールに感受性を持つcold and menthol-sensitive recepter1(CMR1)と17℃以下の侵害冷刺激に感受性を持つANKTM1の2つの受容体である。

TRPM8(CMR1)はCa2+透過性の高い非選択性陽イオンチャネルであり、メントールにより活性化温度閾値が上昇する。つまりメントールのみでは閾値を上昇させているだけなので、実際の冷感は自分の唾液や水分によって起こる

TRPM8遺伝子は後根神経節や三叉神経の中の小型、中型の神経細胞(C繊維、Aδ繊維)に存在している。TRPM8もTRPV1同様、細胞外Ca2+依存的に脱感作がおこる(ハッカの飴をずっとなめていると効果が弱まる)。

TRPA1(ANKTM1)はCa2+透過性の低い非選択性陽イオンチャネルであり、17℃以下の侵害性冷刺激に対して感受性を持つ。 TRPA1はDRG内でTRPV1と共発現している(このことが43℃以上の熱覚を冷覚と感じる理由の一つ)。


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