血液のがん(白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫)

白血球には顆粒球(好中球好塩基球好酸球)、単球(マクロファージ樹状細胞)、リンパ球(CD4+T細胞CD8+T細胞B細胞NK細胞)が含まれている。

白血病は急性(骨髄性/リンパ球性)と慢性(骨髄性/リンパ球性)に分けることができる。

急性と慢性では病期の進行スピードが異なり、前者は週~月単位、後者は年単位で進行する。急性以外は60歳以上の高齢者に多く起こる。

急性と慢性のスピード以外での大きな違いは、骨髄での分化能があるかないかで、急性は分化能がなく正常な成熟した顆粒やリンパ球を作ることができず、未熟な芽球が血中に増えるのに対して、慢性では分化能はあり、成熟した顆粒やリンパ球は産生されるがそれらに異常が生じている。

また、急性では骨髄機能が抑制されているため、白血球以外の血球成分も同時に低下する。慢性では骨髄抑制はない。

骨髄の造血幹細胞はリンパ系幹細胞と骨髄系幹細胞へと分化した後、リンパ系幹細胞はT細胞、B細胞、NK細胞へ分化し、骨髄系幹細胞は骨髄芽球、血小板、赤血球へ分化し、うち骨髄芽球は顆粒球、単球に分化する。

急性白血病(AMLとALL)

急性白血病は骨髄の中で白血球のもとになる骨髄芽球ががん化(遺伝子変異)したもので、造血細胞(白血病細胞=白血球の元になる骨髄芽球やリンパ芽球に類似した芽球様細胞(赤血球や血小板とは有核である点やサイズの点で異なり、血液分画でも白血球の区分に入る))が増殖し、正常な造血細胞が減ってしまい、正常な白血球の減少(感染症、発熱)、赤血球減少(貧血)、血小板減少(易出血)が起こる。

つまり自覚症状があるということ。

骨髄で分化能を持たない骨髄系の骨髄芽球が増えれば急性骨髄性白血病(AML)だし、リンパ球系のリンパ芽球(B細胞、T細胞共に)が増えれば急性リンパ性白血病(ALL)と呼ばれる。

骨髄の芽球の割合が20%以上、血液でも通常見られないはずの芽球が認められれば白血病の可能性が高い。

このように芽球が増えて正常な顆粒球やリンパ球が少ない状態のことを白血病裂孔という。

この未熟な芽球様な急性白血病細胞は分化能力がなく、芽球のまま増殖するため、骨髄が単一な大きさの白血病細胞で埋め尽くされて、他の幹細胞や好中球、リンパ球といった血液細胞たちは減る。

急性白血病の原因は殆どが原因不明で、放射線、抗癌剤治療の副作用、先天性、ウイルス感染他様々による染色体異常。

治療は体内の白血病細胞を根絶する、抗がん剤治療と造血幹細胞移植の2つがある。

抗癌剤治療は寛解導入療法(抗がん剤7日間)を行い白血病細胞を1/10以下にし、地固め療法(抗がん剤1ヶ月に1回、3~4回コース)を行い、白血病細胞を100万子以下にする。残りは自分の免疫で処理することになるが再発することももちろんある。

造血幹細胞移植は他のドナーから、移植を行う直前に骨髄、末梢血から提供されるか、冷凍保存の臍帯血を提供されるかで行われる。ドナーはHLA(白血球の血液型)が一致している血縁者が第一候補、いないなら骨髄バンクへ、それでもいないなら臍帯血バンクへ。骨髄移植はHLA一致していたとしても30%に死のリスク。

移植する前に大量の抗癌剤と放射線の全身照射によって体中全ての血液細胞をゼロにしてから、ドナーの造血幹細胞を移植する。対象は体力のある55歳以下の方。高齢者は抗がん剤量を減量し根絶は目指さず、ドナーのリンパ球が白血病細胞を破壊することを期待する。

リスクは感染症リスク→抗生物質にて対処、GVHD(ドナーのリンパ球と患者の皮膚や肝臓、腸との間で起こる免疫反応)→ステロイドで対処。

骨髄異形成症候群(MDS)

慢性の骨髄系の主要疾患の一つ。

骨髄異形成症候群(MDS)では、骨髄での血液細胞の産生に異常が生じることで慢性的に異形成血液細胞が増加し、結果、全ての正常な血球が減少する(汎血球減少)。

増加した異形成赤血球は平均よりも大きくなることが多いため、大球性貧血に分類される。

進行は遅いがまれにAMLに進展することがある。CMLとの判別にはNAPスコアが使われる。

骨髄増殖性腫瘍(PV/ET/PMF/CML)

慢性の骨髄系の主要疾患で、慢性骨髄性白血病(CML)もここに含むことができます。

CML以外はJAK2(Janus Kinase 2)遺伝子変異によって細胞のシグナル伝達が異常に活性化され、細胞の過剰な増殖や生存につながることが特徴です。→JAK2阻害薬の適応。

CMLだけフィラデルフィア染色体があったり、NAPスコアが低下したり少し特殊。

  • 骨髄増殖性腫瘍は、骨髄内の造血幹細胞が制御を失い、一つまたは複数の血液細胞の種類(赤血球、白血球、血小板)を過剰に生産することが特徴で、以下のようないくつかのタイプがある。
    • 真性赤血球増加症(Polycythemia Vera, PV):中年に多い。JAK2変異が9割以上に見られ、骨髄が過剰な赤血球を生産します。これにより、血液が濃厚になり、血栓症のリスクが高まることがあります。症状は皮膚の掻痒感や赤ら顔、脾腫など。60歳以下は瀉血と低用量アスピリン、60歳以上はハイドロキシウレア(抗がん剤)。EPO↓。
    • 本態性血小板血症(Essential Thrombocythemia, ET):JAK2変異が半数位に見られ、血小板が過剰に生産される疾患で、出血や血栓形成のリスクが増加します。無症状では経過観察、症状があるなら低用量アスピリンやハイドロキシウレア。
    • 原発性骨髄線維症(Primary Myelofibrosis, PMF):高齢者に多い。JAK2変異が半数位に見られ、骨髄内に線維組織が過剰に形成され、造血機能が障害されます。これにより、貧血、脾腫、血小板数の異常が生じることがあります。
      繊維化しているのでドライタップ(dry tap)。骨髄で造血できないので肝臓と脾臓で造血することになり、結果、涙滴赤血球(形成以上でできた涙滴のような形状をした赤血球)ができたり、白赤芽球症(成熟した赤血球と白血球だけでなく、未成熟な形態の血球が末梢血中に現れる状態)になる。
    • 慢性骨髄性白血病(Chronic Myelogenous Leukemia, CML):特定の遺伝子変異(BCR-ABL融合遺伝子)によって特徴づけられる疾患で、過剰な白血球が生産されます。

慢性白血病(CMLとCLL)

慢性白血病は骨髄の中で造血幹細胞ががん化して白血病細胞へとなるが、急性白血病細胞のように単一な未分化の芽球様細胞ではなく、芽球様細胞が分化能を持っているので、それらが成熟・分化した血液細胞(白血病細胞)が骨髄を埋めつくす。

慢性骨髄性白血病(CML)

慢性骨髄性白血病(CML)では、顆粒球(主に好中球)が異常に増加する。

これらの増加した血液細胞は見た目も機能も正常であるので、慢性期(5-6年)は自覚症状がほぼないまま進行する。

白血病細胞は主として白血球へと分化し、血液中へも移行するため、血液中の白血球数が増加することや、脾腫による腹部膨満症状がこの時期の判断材料。

その後、移行期に入ると白血病細胞が悪性化し、がん化した芽球様細胞は成熟しないまま増殖する。骨髄の芽球が20%を超える程度を堺にして急性転化して急性期に入って、急性白血病様の経過をたどる。

急性白血病から慢性白血病へと移行することはないが、慢性白血病が急性転化して急性白血病へと移行することはある。つまり、急性と慢性の意味が本来の意味と少し異なる点に注意を要する。

検査には以下の様なものがある。

  • 血液検査・・・血液中の白血球を調べる
  • 骨髄検査・・・骨髄液をとって調べる。AMLでは芽球が増えて骨髄が繊維化しドライタップ(dry tap:骨髄穿刺時に骨髄液が採取できない状態)が起きる。
  • 染色体検査
  • 遺伝子検査

慢性骨髄性白血病(CML)の原因は、造血幹細胞のABL遺伝子(9番染色体)とBCR遺伝子(22番染色体)の相互転座により、22番染色体がBCR-ABL融合遺伝子(フィラデルフィア染色体)となって、その遺伝子がBCR-ABLという異常なタンパク質を作り、これにエネルギー物質がくっつくと白血病細胞が無限に増殖する。

ABL1はチロシンキナーゼ活性を持ち、チロシンにPを付加する→これが相互転座によって暴走すると細胞増殖・生存延長が起こり、CMLが発症する。分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)はBCR-ABL蛋白にエネルギー物質がくっつくのを阻害する。

  • グリベック(イマチニブ)・・・第一世代
  • タシグナ(ニロチニブ)・・・第二世代
  • スプリセル(ダサチニブ)・・・第二世代
  • ボシュリフ(ボスチニブ)・・・第二世代
  • アイクルシグ(ポナチニブ)・・・第三世代

病巣を作る他のがんと違って化学療法がよく効く。イマチニブの5年生存率は95%。分子標的薬は白血病の幹細胞自体には効かないのでチロシンキナーゼ阻害剤だけでは駆除できない→ずっと飲み続ける必要がある。中止で6割は再発。

CMLの患者では、好中球アルカリフォスファターゼ(neutrophil alkaline phosphatase, NAP)活性が著しく低下することが一般的です。これは、CMLの患者さんに特有のBCR-ABL遺伝子の転座が好中球の成熟と機能に影響を与えるためです。NAPスコアは好中球の成熟度を表し、PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)でも下がる。

MDSの患者ではNAPスコアが正常範囲にあるか、わずかに異なる場合がありますが、CMLで見られるような著しい低下がないため、NAPスコアは、これら二つの病態を区別するための補助的なツールとして使用されます。

慢性リンパ性白血病(CLL)

慢性リンパ性白血病(CLL)では、B細胞(通常T細胞に発現するCD5がプラスのB細胞)が異常に増加します(急性と違いB細胞のみがターゲット)。

異常なB細胞が、赤血球に対して攻撃してしまうと自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が引き起こされるので、しばしばCLLはAIHAを合併する。AIHAを合併していればクームス試験が陽性になる。

また増殖したB細胞が他の血球の増殖を抑制してしまうため、貧血やT細胞低下による免疫低下が引き起こされる。T細胞が減るのでツベルクリン反応は陰性になる。

慢性リンパ性白血病(CLL)の原因は不明で原因となる遺伝子も判明していない。

症状がなければ経過観察、有るなら化学療法。

成人T細胞白血病(ATL)

成人T細胞白血病(leukemia)は、一般的に「ATL」と略されます。これは、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルスタイプ1)の感染によって引き起こされる血液がんの一種です。

しかし、この病気は「成人T細胞白血病/リンパ腫(Adult T-cell Leukemia/Lymphoma)」と呼ばれることもあり、この場合は「ATLL」と略されます。

ATLとATLLは、同じ疾患を指していることが多く、文脈によって略称が異なることがありますが、両方ともHTLV-1による血液のがんを指します。

HTLV-1がT細胞に侵入する正確な受容体は、HIVのCD4やCCR5/CXCR4のようには明確に特定されていません。

HTLV-1のエンベロープ糖蛋白質は、ヘルパーT細胞だけでなくキラーT細胞に対しても宿主細胞の特定の受容体または共受容体と相互作用することで感染し、異常な活性化と増殖を促進させて、免疫機能を低下させます。

悪性リンパ腫(HM)

悪性リンパ腫は、慢性リンパ性白血病と本質的に差はないが、骨髄での芽球が25%以下で増殖が主にリンパ節で行われるものを悪性リンパ腫としている。骨髄内での増殖というよりリンパ組織で増殖し腫瘍化したというニュアンス。

リンパ節にホジキン細胞(リード・シュテルンベルグ細胞:Reed-Sternberg cells)を認めるホジキンリンパ腫と、それ以外のリンパ腫(非ホジキンリンパ腫)に分類され、後者が90%を占める。

リード・シュテルンベルグ細胞はホジキンリンパ腫の診断において重要で、大きく異形の細胞で、1つまたは複数の大きな澄明な核とそれを取り巻く広い細胞質を持ち、核は「ふくろうの目」と呼ばれる。

非ホジキンリンパ腫には、

  • 濾胞性リンパ腫・・・やや多い。治りにくい
  • MALTリンパ腫・・・やや多い。ピロリ菌の感染があれば除菌→これだけで7-8割は治癒。
  • マントル細胞リンパ腫・・・治りにくい
  • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・・・最も多い。6-7割は治癒する。
  • 末梢性T細胞リンパ腫・・・治りにくい
  • 成人T細胞白血病/リンパ腫・・・治りにくい
  • バーキットリンパ腫

等が該当し、進行スピードにより分類されている(リストでは上の方が遅く、下に行くほど早い)。

症状としては首、鼠径部、腋窩などのリンパ節の腫脹(痛みを伴わない可動性で弾性)と、B症状(発熱、夜間の発汗、体重減少)

発熱は特に夜間、夜間の発汗はシーツを交換するほどの重度の発汗、体重の10%が半年以内に減少する。

診断はCTやMRIがメイン

治療はホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫で分けて考える。

ホジキンリンパ腫でリンパ節腫脹が横隔膜より上に限定されている場合は、ABVD療法と放射線(放射線は限局している場所にしか使えない)、骨髄含め全身の場合はABVD療法。

ABVD療法は、ホジキンリンパ腫の化学療法のレジメンの一つで、Aはアドリアマイシン(ドキソルビシンの別名)、Bはブレオマイシン、Vはビンブラスチン、Dはダカルバジン。通常2週間間隔で6-8サイクル回す。副作用は、一般的な抗がん剤の副作用(脱毛、吐き気、口内炎)に加えてブレオマイシンの肺障害、ドキソルビシンの心臓障害。

非ホジキンリンパ腫では標準治療は、CHOP療法(シクロフォスファミド点滴、ドキソルビシン、オンコビン、プレドニゾロン)を3週ごと、放射線、自家移植(患者本人の造血幹細胞を使う。65歳以下)が用いられる。

自家移植は、予めG-CSFを投与して造血幹細胞を増やしたあと、血管から造血幹細胞を採取してそれを凍結保存しておき、白血病細胞を大量の抗癌剤で根絶し、凍結保存しておいた造血幹細胞を点滴で戻す治療。

CD20が陽性の場合、つまり、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では、CHOPに加えて、抗CD20抗体であるリツキサン(Bリンパ腫細胞のCD20抗原に結合して、自己の免疫細胞の標的とし、B細胞の増殖を抑える)を使用したR-CHOP療法を用いる。

多発性骨髄腫(MM)

ゆっくり進行し、治りにくい、骨が痛む血液のがん。

通常、リンパ球の中のB細胞が分解・成熟して免疫グロブリンを産生する形質細胞になり骨髄に戻って待機しているが、多発性骨髄腫ではこの形質細胞が骨髄で腫瘍化して増殖し、破骨細胞の働きを強め、骨芽細胞の働きを弱めたり、造血幹細胞を阻害するので他血球成分を減少させる。

骨髄腫の細胞も抗体は作るが、それらはM蛋白とよばれ、抗体としては働かない。M蛋白は腎尿細管に詰まって腎不全を引き起こしたりする。

症状は造血抑制による貧血や白血球減少、免疫低下による感染症、腎障害による浮腫、骨破壊による骨の痛みや骨粗鬆症が起こる。

治療は、症状が現れない場合は経過観察、65歳未満は化学療法(3-4ヶ月)を始めとして、造血幹細胞の自家移植、放射線、ビスホス製剤等、65歳以上は化学療法を9-12ヶ月で行う。

薬は分子標的薬であるプロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ等)と多発性骨髄腫治療薬(デキサメタゾン、レナリドミド他)の併用。

プロテアソームの機能:β1(caspase-like cleaves after acidic AA)、β2(trypsin-like Cleaves after basic AA)、β5(chymotrypsin-like Cleaves after hydrophobic AA)。シグナル伝達に関わるタンパク質(基質はβカテニン、kBq、p53他)の分解。

プロテアソーム阻害のイキサゾミブはβ5(β1)サブユニットを強く抑制するが、β5サブユニットから解離し易いため、赤血球へのトラップが少ない(赤血球にはプロテアソームが結構あるため)、腫瘍組織以降性が高い(ボルテゾミブの10倍以上)、p53変異による新生βサブユニット抑制効果が高い、Rdと相乗効果を示す等の特徴がある。

(参考:白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫について白血病、きょうの健康)

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