ビオチン代謝

作用 欠乏症 過剰症 必要量
(経腸栄養)
必要量
(静脈栄養)
脂質、糖代謝、アミノ酸代謝 脱毛・知覚異常、皮膚炎 30μg 60μg

ビオチンは、6-カルボキシヘキサノエートから腸内細菌の作用にて合成されるか、食物中にタンパク質と結合した状態で存在しているビオチンを摂取することによって、それが生体内のペプチダーゼでN6-ビオチニル-L-リシン(ビオシチン)に分解され、さらに、ビオチニダーゼでビオチンのカルボキシル基とリシンのεアミノ基から成るアミド結合を切断することで合成される。

ビオチン代謝

ビオチン製剤

  • ビオチン(ビオチン)

ビオチンの作用機序

ビオチンは、主として4種のカルボキシラーゼ(ピルビン酸カルボキシラーゼ、アセチルCoAカルボキシラーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、β-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ)の補酵素としてその作用を示す(水溶性ビタミンは全て補酵素)。

カルボキシラーゼは基質に炭素固定(CO2固定)をする酵素である。

まず、1つ目のピルビン酸カルボキシラーゼは、アセチルCoA―→オキサロ酢酸へと進行させる酵素で、この反応を進行させるためには補酵素であるビオチンの作用が必要となる。

2つ目のアセチルCoAカルボキシラーゼは、アセチルCoA―→マロニルCoA反応を進行させる酵素で、脂肪酸の合成に関与している。

アトピー性皮膚炎患者の脂肪酸組成がビオチン投与で改善されたことから、血液中のビオチン濃度が正常の半分程度といわれるアトピー性皮膚炎の患者における皮膚の落屑や油分の不足にこの辺の機序も絡んでいるのかもしれない。

以上2つの酵素の、糖代謝での位置取りは以下の図を参照してほしい。

参考←糖代謝

次に、3つ目のプロピオニルCoAカルボキシラーゼは、脂肪酸のβ酸化によりアセチルCoAと一緒に得られるプロピオニルCoAをS-メチルマロニルCoAへと進行させるために必要な酵素で、プロピオニルCoAは最終的にスクシニルCoAへと合成されてTCA回路へと組み込まれる。

ビオチンが不足している状態では、別経路として3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸が合成される。

プロピオニルCoA代謝

最後の4つ目のβ-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼはロイシンの分解に関与する。

分解により生成されるアセチルCoAはご存知の通りTCA回路へ、アセトアセチルCoAはHMG-CoAを介してメバロン酸経路へと進行する。以下に簡単な概略だけ示す。

バリン・ロイシン・イソロイシン代謝

ビオチンのその他の作用

ビオチンの作用として機序が明らかにされていない、もしくは管理人が機序を知らないものをここに述べる。

最も有名な作用として卵白の成分であるアビジンと結合してその効果を失うことが挙げられる。卵白といえど火を通せば問題ないため、生卵の多量摂取はビオチン欠乏症を招く(欠乏症は通常は起こらない)。

また、このビオチン-アビジン結合はアフィニティクロマトグラフィーにも利用される。

次に、T細胞、B細胞などの免疫系の是正(主に細胞性免疫?)とヒスチジンなどのアミノ酸の尿中排泄の変動がある。

免疫系の細胞は元を辿ればアミノ酸なので、それを調整することが過剰な免疫を抑えることと関係があるのかもしれない。

ビオチンのヒスチジン排泄作用についても、実験データはあるもののその機序は明らかではないが、これが今現在アトピー性皮膚炎治療とビオチンを結びつける上での一番の作用であるのは言うまでもない。

ビオチンと乳酸菌

乳酸菌と言えば、当サイトのほかのページで述べた通り、Th1/Th2バランスを改善するといったアトピー性皮膚炎治療にとって有用な作用があるが、この乳酸菌の中で一部の菌群が、オリゴ糖、食物繊維のようにビオチンを栄養素として取り入れて増殖するものがいるという。

今の時点(H18/11/2)では、どの菌がそうなのか?と断定できないが、少なくともビフィズス菌の大部分がビオチン消費能を持つということは確実視される。

アトピー患者の多くは、ビオチニダーゼ活性が低く、食品中のビオチンをうまく利用できないというデータもあり、これが、ビフィズス菌摂取における不安感に拍車をかけているように思われる。

ビフィズス菌摂取はいけないのか?に関して、アトピー性皮膚炎の人のように腸内菌叢に悪玉菌が多い場合は、菌叢を元に戻すために、ほぼ欠乏の可能性のないビオチン不足を気にせず、大量とは言わないまでも、比較的多めに摂取するのは良いことだとは思う。

もし、これを見て不安になってしまった方は、ビフィズス菌以外の乳酸菌(代表はアシドフィルス菌:ビオチン生産能も兼ねるため)をとるか、「ビオチン+乳酸菌」のセットで摂取するのがいいだろう。

掌蹠膿疱症の人がよく使用する、「ビオチン+酪酸菌」の組み合わせでもよい(酪酸菌は乳酸菌ではないが、乳酸菌の作用を高める作用を持つ)。

ビオチンとD型、d型

D体、L体はフィッシャー投影図で見たときのOHの向き(D-グルコースなら5位のOHが右)を示すが、d体、l体はハース投影図らで立体を回転させたときのRに当たるのがd(右旋性)、Sに当たるのがl(左旋性)と言うように旋光度の±を示す。

L型ビオチンは効果があるけどD型ビオチンはまったく効果がない。

まぁ言いたいことは、大文字のDと小文字のdでは意味合いが違くて、L型ビオチンとl型ビオチンでは意味合いが異なるということ。

くわしくは、エナンチオマーやジアステレオマーなどとあわせて有機化学のページで学んでください・・・(立体の回転はOHを奥に固定だったかな)。


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