抗菌薬一覧

抗菌薬の使い方

De-escalationと細菌培養

細菌培養(血液培養、喀痰培養、尿培養等)は72時間という比較的長い時間がかかるため、菌の種類が特定されるまで(初期治療)は可能性が高い菌を比較的広範囲にカバーできる抗生物質を使用し、菌が特定したら第一選択薬に切り替える。

対義語はescalationで、状態が安定していれば狭範囲から広範囲に広げていく方法がとられる。

臓器移行性

臓器移行性高い抗菌薬 髄液 肝・胆汁 腎・尿路 前立腺 食細胞
βラクタム系全般
ペニシリン系
ペニシリン系
(ピペラシリン)
セフェム系(第三世代~)
カルバペネム系
マクロライド系
テトラサイクリン系
ニューキノロン系
リンコマイシン系
クロラムフェニコール系
アミノグリコシド系
グリコペプチド系

薬物動態/薬力学(PK/PD)

抗菌薬のPK/PDガイドラインから、PK/PD パラメータには(Cmax/MIC※1、AUC/MIC※2、T>MIC※3 等)があります。

  • ※1:最大血中濃度(Maximum concentration)/ 最小発育阻止濃度(MinimumInhibitory Concentration(MIC))
  • ※2:濃度-曲線下面積(Area under the time-concentration curve)/MIC
  • ※3:定常状態の 24 時間で血中薬物濃度が MIC を超えている時間の割合(Timeabove MIC)

Cmaxが重要な抗菌薬は、アミノグリコシド系とニューキノロン系抗生物質が該当し、これらは1回投与量が不十分だと細菌の細胞内へ移行できず、きちんとした効果が現れません。

Timeabove MICが重要な抗菌薬は、βラクタム系が該当し、MICを超えている時間が長い方が、結果としてPBPを阻害している時間が長くなるため、頻回の投与が必要となります。

細菌の種類

  • グラム陽性菌:グラム染色で青色。グラム陰性菌:グラム染色で赤色
    グラム染色で染まらない菌の代表は以下
    • 結核菌・ハンセン病菌・・・ツィール・ネールセン染色で赤色、非抗酸菌は青色
    • マイコプラズマ・・・DNA染色
    • クラミジア、リケッチア・・・ジアセチルモルフォリン塩酸イオジン染色
    • レジオネラ・・・ヒメナス染色
    • 梅毒、ボレリア・・・メイ・ギムザ染色
    • 真菌・・・GMS染色
  • 通性嫌気性菌は好気的もしくは嫌気的どちらでも発育可能な菌で、偏性嫌気性菌は嫌気性条件下でなければ発育できない菌のこと。つまり本来の意味での嫌気性菌は偏性嫌気性菌が該当するということ。
  • 非定型菌・・・典型的な細菌と異なる性状を持つ細菌群のこと。
    • グラム染色で染まらない(or染まりにくい)
    • 細胞壁がない(マイコプラズマ)、あってもペプチドグリカンをほぼ持たない(クラミジア・リケッチア)
    • 自己増殖性がない細胞内寄生菌(クラミジア・リケッチア・レジオネラ)
    • 白血球が上がりづらい
    など、統一性がないため、個々の菌ごとに特徴を抑えておく必要がある。
    これらの菌は細胞壁がないor宿主の細胞内に移行しないとならないのでβラクタム系ではなく、ニューキノロンやマクロライド、テトラサイクリンを使用する。
    非定型菌(マイコプラズマ、レジオネラ、クラミジア)が引き起こす肺炎のことを非定型肺炎と呼び、乾性咳嗽で痰がでにくいことが特徴。
  • 細菌性腸炎では毒素を出す菌(コレラ菌、C.ディフィシル、MRSA等)は水様便(米とぎ汁)、腸にダメージを与える菌(赤痢菌等)は血便になる。ただし、腸管出血性大腸菌のベロ毒素は水様便だけでなく血便にもなる。
  • 腸内細菌はブドウ糖を原料に発酵によるエネルギー産生を行うことができる。

細菌の種類一覧

グラム陽性球菌

  • グラム陽性球菌(GPC:Gram-Positive Cocci)
    • ブドウ球菌属(Staphylococcus)
      • 黄色ブドウ球菌(S.aurens)
      • 表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)
      • 腐生ブドウ球菌(S.saprophyticus)
    • レンサ球菌属(Streptococcus)・・・腸内常在菌。ホモ
      • A群溶血性レンサ球菌(S.pyogenes)・・・溶連菌
      • B群溶血性レンサ球菌(S.agalactiae)
      • C, G群溶血性レンサ球菌(S.dysgalactiae ssp.equisimilis)
      • アンギノサス(S.anginosus)
      • コンステラータス(S.constellatus)
      • インターメディウス(S.intermedius)
      • 肺炎レンサ球菌(S.pneumoniae)・・・呼吸器
      • ミティス(S.mitis)
      • サングイニス(S.sangulnis)
      • サリバリアス(S.salivarius)
      • ウシレンサ球菌(S.bovis)
      • ミュータンス(S.mutans)
      • サーモフィルス菌(S.thermophilus)・・・乳酸菌
      • フェカリス菌(S.faecalis)・・・乳酸菌
    • 腸球菌属(Enterococcus)
      • フェカリス菌(E.faecalis)・・・ホモ(乳酸)
      • フェシウム菌(E.faecium)
    • ラクトコッカス属 (Lactococcus)
      • ラクトコッカス・ラクティス(L.lactis)・・・ホモ(乳酸)
    • ペディオコッカス属(Pediococcus)・・・ホモ(乳酸)
    • リューコノストック属 (Leuconostoc)・・・ヘテロ

グラム陽性桿菌

グラム陰性球菌

グラム陰性桿菌

その他

疾患と原因菌と治療薬の関係

  • SHM・・・【呼吸器原因菌:】肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラリス。アモキシシリン/クラブラン酸が第一選択。耐性があればセフトリアキソン(第三世代)。
  • PEK・・・【腸内細菌:】プロテウス、大腸菌、クレブシエラ。第一世代セフェムが第一選択、アモキシシリンはクレブシエラ以外なら第一選択にできる。βラクタマーゼ(TEM-1、AmpC)産生菌ならアモキシシリン/クラブラン酸、耐性があれば第三世代セフェム、βラクタマーゼ(ESBL)産生菌ならカルバペネム系
  • SSCE・・・【細菌性腸炎原因菌:】赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、大腸菌。SSEではセフトリアキソン(第三世代)が第一選択、アモキシシリンも使用可能。カンピロバクターはセフェム系耐性のためマクロライドが第一選択
  • SPACE・・・【医療関連感染原因菌:】セレチア、緑膿菌、アシネトバクター、サイトロバクター、エンテロバクター。第一選択はセフェピム(all)、カルバペネム系(all)、ピペラシリン・タゾバクタム(緑膿菌、セラチア)
    院内感染は入院後48時間以上経過してから発症したもので、市中感染ではほとんど起こらないのに院内感染でMRSAや緑膿菌の感染症が起こる理由は、以下のようなものが挙げられる。
    • 患者の免疫力が低下している
    • 患者同士、医療従事者と患者、点滴などの医療器具、トイレなどの共同スペースを介して汚染されやすい
    • 抗菌薬の不適切な使用
  • HACEK群・・・Haemophilus sp.、ActinobacillusCardiobacteriumEikenellaKingella の5種のグラム陰性桿菌の総称です。これらの細菌は、いずれも口腔、咽頭、腸管などの常在菌であり、通常は健康な人に感染することはない。
疾患 代表的原因菌 治療薬
髄膜炎
敗血症
髄膜炎菌(数%)、肺炎球菌、インフルエンザ菌、大腸菌(新生児)、B群溶血性レンサ球菌(新生児)、リステリア(新生児・高齢者) 第一選択はペニシリンG(ただし感受性判明まではセフトリアキソン)、カルバペネム系も使用可。リステリアにはセフェム無効なのでアンピシリン
肺炎 細菌性肺炎:SHM、百日咳菌
非定型肺炎:マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ
誤嚥性肺炎:+嫌気性菌類
ステロイド投与患者:ニューモシスチス(寄生生物)、サイトメガロウイルス
SHMの第一選択はアモキシシリン(耐性があるならアモキシシリン/クラブラン酸、モラクセラはβラクタマーゼ産生菌)、代替はセファレキシン(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌)、セフトリアキソン/セフカペン/セフジトレン、ニューキノロン系。マイコと百日咳菌はマクロライドorテトラサイクリン。ニューモシスチス肺炎はST合剤、CMVはガンシクロビル
副鼻腔炎、中耳炎 SHM 細菌性肺炎と同じ原因菌なのでアモキシシリン第一選択、耐性があればβラクタマーゼ配合薬、代替はセフトリアキソン、ニューキノロン系、慢性はマクロライド
咽頭炎 A群溶血性レンサ球菌 第一選択はアモキシシリン、代替はセファレキシン。
口腔内感染 口腔内レンサ球菌(ミティス、アンギノサス等) 第一選択はアモキシシリン、代替はクリンダマイシン、セファレキシン+メトロニダゾール。
腸内細菌 PEK アモキシシリンorセファゾリンが第一選択、耐性があればセフトリアキソン、βラクタマーゼ産生菌ならカルバペネム系
細菌性腸炎 SSCE 第一選択はセフトリアキソン、次いでニューキノロン、アジスロマイシン
膀胱炎 大腸菌 第一選択はセファレキシン、代替はアモキシシリン/クラブラン酸、ST合剤、ニューキノロン
胆嚢炎、胆管炎 PEK、腸球菌 腸球菌の第一選択はアモキシシリン(セフェムは効果なし)、PEKは第一世代セフェム
腎盂腎炎 PEK、腸球菌 腸球菌の第一選択はアモキシシリン(セフェムは効果なし)、PEKは第一世代セフェム
性感染症 梅毒トレポネーマ、クラミジア、淋菌 梅毒トレポネーマは耐性菌がなく、1回で済むペニシリン筋注が第一選択。淋菌はセフェム第三世代が効果あり。
蜂窩織炎、壊死性筋膜炎 黄色ブドウ球菌、化膿レンサ球菌、嫌気性菌 MSSAの第一選択である第一世代セフェム。ただしMRSA、嫌気性菌に効かないので、MRSAにはバンコマイシン、嫌気性菌にはアモキシシリン
感染性心内膜炎(IE) レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、HACEK群 第一選択はペニシリンG、耐性菌にはバンコマイシン
医療関連感染 SPACE セフェピム(all)、カルバペネム系(all)、ピペラシリン・タゾバクタム(緑膿菌のみ)
偽膜性大腸炎 クロストリジウム・ディフィシル メトロニダゾール、バンコマイシン
動物咬傷 エイケネラ(ヒト)、バスツレラ(動物)、黄色ブドウ球菌(共通) 第一選択はアモキシシリン/クラブラン酸、代替はST合剤+クリンダマイシンorメトロニダゾール、ドキシサイクリン+クリンダマイシン

細菌(個別)と最適治療薬の関係

細かい感受性は抗菌薬インターネットブックで検索可能。

アンピシリンとアモキシシリンは同じ、アモキシシリン/クラブラン酸がOKならピペラシリン/タゾバクタムもOK。

分類 菌種 第一選択 第二選択






黄色ブドウ球菌
(MSSA)
第一世代セフェム バンコマイシン、テイコプラニン、アモキシシリン/クラブラン酸
黄色ブドウ球菌
(MRSA)
バンコマイシン アルベカシン、リネゾリド、テイコプラニン
市中型MRSA(軽・中等症) (ST合剤orミノサイクリン)±リファンピシン クリンダマイシン
市中型MRSA(重症) バンコマイシン、テイコプラニン リネゾリド、ダプトマイシン
表皮ブドウ球菌 バンコマイシン リファンピシン+(ST合剤orフルオロキノロン系)
腐生ブドウ球菌 セフェム系、アモキシシリン/クラブラン酸 フルオロキノロン系
β溶血性連鎖球菌
milleriグループ
ペニシリンG βラクタム系
α溶血性連鎖球菌
(緑色レンサ球菌)
ペニシリンG 第一世代セフェム
腸球菌 ペニシリンG、アンピシリン バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド
肺炎レンサ球菌 ペニシリンG、アンピシリン/スルバクタム 第一世代セフェム、セフォタキシウム、クラリスロマイシン
肺炎レンサ球菌(中耐性) セフトリアキソン、セフォタキシム、大量ペニシリンG イミペネム/シラスタチン、バンコマイシン、レボフロキサシン
肺炎レンサ球菌(高耐性) バンコマイシン±リファンピシン -






セレウス バンコマイシン、クリンダマイシン フルオロキノロン系、イミペネム/シラスタチン
C.jeikeium バンコマイシン ペニシリンG+アミノグリコシド系
ジフテリア エリスロマイシン ペニシリンG
リステリア アンピシリン ST合剤






髄膜炎菌 ペニシリンG、セフトリアキソン メロペネム
淋菌 セフトリアキソン、セフォタキシム アジスロマイシン
モラクセラ アモキシシリン/クラブラン酸 第二・第三セフェム、アジスロマイシン、クラリスロマイシン






アシネトバクター イミペネム/シラスタチン、メロペネム、フルオロキノロン系+セフタジジム アンピシリン/スルバクタム
ブルセラ テトラサイクリン系±ゲンタマイシン ST合剤+ゲンタマイシン
バークホルデリア ST合剤、メロペネム、シプロフロキサシン ミノサイクリン、クロラムフェニコール
カンピロバクター・ジェジュニ アジスロマイシン エリスロマイシン、シプロフロキサシン
カンピロバクター・フェタス ゲンタマイシン イミペネム/シラスタチン
サイトロバクター イミペネム/シラスタチン、メロペネム シプロフロキサシン、ゲンタマイシン
エンテロバクター イミペネム/シラスタチン、メロペネム、ゲンタマイシン アミカシン、第三世代セフェム、ST合剤
大腸菌(尿路感染) アモキシシリン/クラブラン酸、ST合剤 フルオロキノロン、セフェム系、アンピシリン、アモキシシリン
大腸菌(全身感染) 第三世代セフェム ゲンタマイシン、アミカシン、アンピシリン/スルバクタム
インフルエンザ菌(髄膜炎) セフォタキシム、セフトリアキソン、ペニシリンG ST合剤、イミペネム/シラスタチン、メロペネム、フルオロキノロン系、アンピシリン
インフルエンザ菌(他の感染症) アンピシリン、アモキシシリン/クラブラン酸、セフェム系(第一以外) ST合剤、イミペネム/シラスタチン、メロペネム、フルオロキノロン系、アンピシリン
クレブシエラ セフェム系 フルオロキノロン系、ST合剤、ゲンタマイシン、アミカシン、アモキシシリン/クラブラン酸
レジオネラ レボフロキサシン アジスロマイシン
プロテウス アンピシリン、セファゾリン ST合剤
緑膿菌 セフェピム、セフォゾプラン、ピペラシリン/タゾバクタム、カルバペネム系、シプロフロキサシン 第三世代セフェム、ドキソルビシン/シスプラチン、イミペネム/シラスタチン、メロペネム
百日咳菌 マクロライド系 ニューキノロン系、セフェム系
セラチア ピペラシリン/タゾバクタム、シプロフロキサシン、レボフロキサシン カルバペネム系
S.maltophilia ST合剤 フルオロキノロン系



バクテロイデス メトロニダゾール ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム、アモキシシリン/クラブラン酸、セフメタゾール
クロストリジウム・ディフィシル メトロニダゾール バンコマイシン
クロストリジウム(ディフィシル以外) ペニシリンG メトロニダゾール
ウエルシュ菌 ペニシリンG±クリンダマイシン ドキシサイクリン
破傷風菌 ペニシリンG、メトロニダゾール ドキシサイクリン
ラクトバチルス (ペニシリンGorアンピシリン)+ゲンタマイシン クリンダマイシン、エリスロマイシン
ペプトストレプトコッカス ペニシリンG クリンダマイシン


神経梅毒 ペニシリンG テトラサイクリン系
マイコプラズマ マクロライド系 テトラサイクリン系、ニューキノロン系
クラミジア マクロライド系 テトラサイクリン系
リケッチア テトラサイクリン系 マクロライド系
レジオネラ ニューキノロン系 マクロライド系

(参考・引用動画:抗菌薬をはじめからていねいに実臨床のための抗菌薬選択と感染症診療のキホン


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